火照りはまるでトマトのように

、お昼行こう」
「ああ、そうね」

 同僚のゼタに声をかけられ、パソコンの画面を確認する。ちょうどきりもいいしと鞄から財布取り出すと、後ろの席から声がかかった。

「あれ、先輩、外行くんですか?」
「え? ええ、そうだけど」
「僕もご一緒させていただいていいでしょうか」
「今日も元気だけはいいね、コスティ」

 私が返事をする前に向かいから呆れたようにゼタが言う。後輩くんはいつでもこの席にいるわけではないので、たぶん私が昼に外に行くのを知らなかったのだろう。ゼリーで済ませるのは忙しい時と面倒な時だけだ。とりあえず仕事の進行は問題なさそうだったので三人で昼食をとることにする。
 たまにゼタや他の人と共に訪れるレストランのテーブル席に腰を落ち着ける。出された水を一気に飲み干し、ゼタは顔をしかめた。

「それにしても暑いわ。これいつになったら終わるわけ?」
「まだ始まったばかりじゃないの。それに、雨が降らないだけマシでしょう」
「まあねえ」
「何にするの?」
「アマトリチャーナ」
「コスティは?」
「あ、えーと……何がおすすめですか?」
「トマト系はおいしいわよね」
「うん。でもここなんでもおいしいよ」
「じゃあ……プッタネスカで」
「あんたは?」
「久しぶりだし、ペスカトーレにするわ」

 向かいの席にコスティ、その隣にゼタ。ゼタが注文している間もコスティはメニューを見ている。初めて来たのだろう。よく考えたら一緒にご飯を食べるのは初めてだし、いつもお昼をどうしているのかも知らない。店員が去るとゼタと目が合った。

「そういえば
「何?」
「彼氏できたの?」
「彼氏?!」
「……ああ、一昨日の? 違うわよ」

 何かと思えば、とため息を吐く。ゼタにはシャルナークさんと歩いているところを目撃されていたのだった。しかしゼタの興味はどうやらそちらではないらしい。隣に座る(からかい甲斐のある)後輩くんに目を向け、悪い顔をしている。当人はと言えばそんな視線に気づいていないのか、私に催促の目を向けてきた。

「最近知り合っただけ」
「それ、聞いてないけど」
「……聞きたかったの?」
「コスティがね」
「えっ」
「あんたやたらに迷惑かけると思ったら、そういうことだったんだ?」
「ち、あ、あの、その、ご迷惑をおかけして申し訳ないとは」
のことならあたしに相談しなよね」
「ゼタ! からかわないの」
「えー面白いんだもん」

 かわいそうに、あがり症で赤面症の彼はひどく真っ赤になっている。面白いのは分からなくもないが当事者になってしまうと話は別だ。再びため息を吐いて、水を口に含んだところでパスタが運ばれてきた。見事にテーブルの上が赤い。
 私がからかわれることはないだろうと思っていたけれど、まさかこうなるとは。ゼタは彼氏ではないと分かっていたはずだ。なんでもかんでも話しているわけではないがそういう話はいつもしているし、お互い年齢的に焦っているというのもある。まあ、ゼタも私も結婚より仕事の方が大事だと思っている節があるから、特別焦ってもいないけれど。

「で、どうなの?」
「どうって?」
「付き合えそうかとか。どんな人?」
「うーん……爽やかで明るい人よ。あと、頭の回転は速いと思う」
「仕事は? あと年齢」
「さあ、聞いてない」
「え、ねえ、最近知り合ったって言ってたけど、どういう知り合いなの?」

 その疑問は当然のものだ。しかしどういう知り合いかと聞かれると、ただの顔見知りとしか言えない。ナンパされたとも言いにくいし、常連同士と説明するのが一番いいかもしれない。パスタを咀嚼しながらそう結論づけたところで、コスティがこちらを見ているのに気づいた。顔を上げる。目が合うとはっとしてまた自分の食事を再開した。……困ったな。それを悟られないようゼタに目を向ける。

「ミハエルと前に行った喫茶店覚えてる? 駅前の」
「あー、ドーナツとピザの?」
「そう。彼あそこの常連なのよ」
「なるほどね。それで、ナンパでもされたわけ」
「……聞こえが悪いわ」
「へえ、ほんとに?」
「ちょっと食事しただけよ」
「だってさ」
「ぼ……僕に振らないでください」
「次いつ会うの?」
「二週間ぐらい仕事で海外に出るらしくて。約束とかはしてないから、それ以降にあそこで会うのが次ってことになるわ」
「ふーん……何の仕事よ、それ」
「あんまり詮索してもね」
「言えない仕事してる男はよくないと思うけど?」
「そうですよ、先輩」
「お、元気出した。あんたは立派にSEやってるもんね」
「り、立派かどうかは置いときますけど……怪しい人には気をつけてくださいね」
「コスティ、私だって子供じゃないのよ」
「す、すみません!」

 怪しい人か。素性が知れない人間を怪しいと言うのであれば、確かに彼はとても怪しい。何が目的なのかも分からない。ただ、普通に会社勤めをしているようには見えないし、私に好意を抱いているようにも思えない。勘だけれど。
 それにしたって四つも年下の後輩に心配されても困る。この男が近くにいるせいで、シャルナークさんからの好意をすこしも感じないのだろうか。