頭蓋の漏れ出す切なさと

 電話はもちろんキツォスからだった。一度男から体を離し、今度こそ電話に出る。今さら何の用だろう。

「もしもし」
『私だ。どこにいる?』
「どこかの屋上です。ダビドなら死にましたよ」
『ああ、知っている。能力は解除できなかったらしいな』
「そんなことが分かるのですか?」
『あれは私の能力だ。だが自分では発動することができない』
「不便ですね」
『分からないかね、私には解除しか、私にしか解除はできないということだ。つまりそもそも君があの男と会う必要はなかった』

 私のやったことは全て無駄だったということ。隣に立つヒソカさんに寄りかかる。ダビドはただ利用されていただけらしい。もしかしたら先ほど言っていたことは本心だったのかもしれない。もう、今となってはどうでもいいことだ。死んだ人間のことなど。
 キツォスには私個人への恨みはないだろう。まだ私の知らない何かがあるのなら別だが、デュカキスの件も私怨ではなく組織としての制裁だ。ならば能力の解除に必要なのは取引。頭を撫でる手はいつもと変わらず穏やかだ。

「最初から……彼を利用していたんですね」
『使いやすい男だったよ』
「私があなたを殺すとは?」
『私の能力は死後もつきまとうぞ。それでは君は唯一の武器を失ってしまうだろう。その重さを一番理解しているはずだ』
「また電話します」
『期待しておこう』

 ヒソカさんの所属している組織に恨みがあると言っていた。そして私にはこの人の命と引き換えに囲ってやるということを。しかしどちらにしろ解除してもらわなければ私は満足に戦えない。解除させてすぐに殺せばいいのではないか。いや、あの男がそんなことも理解できていないとは思えない。きっと本人に会ってしまったら終わりだ。ケータイを鞄にしまう。
 私はこの人を殺すために今生きている。けれど、私では到底敵わない相手なのだ。分かっている。分かっている……。


「はい」
「不安かい?」
「……ええ、とても」
「くっくっく。どうして? やっと僕を殺す口実が見つかったのに」
「知ってたんですか?」
「君のことならなんでも知ってるよ」

 本当は殺したくなどないことも、殺そうと思っても殺せないことも、それらを自覚していることも。きっとそういうことなのだろう。私はどうすればいい? 帰ろうと言って男が再び私の体を持ち上げた。

「好きだよ。君の泣き顔」
「……嘘ばっかり」

 私は弱い。
 風圧が強く目を瞑る。弱い。ああ、そうだ、私は誰よりも弱かったのだ。気づかないフリをしていただけ。男に抱きつく力を強める。強くありたかった、何も疑う必要がないくらいに。
 自分を疑うことも、ないくらいに。