お子様の口でアイスが溶ける

「以前も言った気がしますけど」
「ん?」
「私の部屋の壁に傷をつけるの、やめてください」
「いいじゃないか。そんなに大事かい?」
「いえ、別に。ただ、言ったことを守れない子供には罰が下ります」
「くっく、いいねえ、罰」

 アレクが持ってきたアップルパイを挟んでそんな会話を交わす。よかった、彼がアップルパイを作れるようになってくれて。対面に座った男は大量のアイスクリームをパイの上で溶かし、少しずつ口に運んでいる。
 男の久しぶりという言葉は正しく、実に二か月ぶりだ。覚えている。ぴったり二か月前この人は今と同じようにその椅子に座ってアレクの作ったシフォンケーキを食べていた。まさかこんなに日が空くとは思っていなかったけれど、またここに来たのだから構わない。その前、初めてここに来たのは確かそれの一週間ほど前だっただろうか。本当に気まぐれなのだろうなと思う。

「おいしいですね」
「そうだね」
「今日は何故こちらに?」
「理由がなくちゃ駄目?」
「私は理由を教えていただきたいのですが」
「んーなんとなく」
「そうですか」
「君、仕事なくて困ってるんだって?」
「いえ、そういうわけでは。誰がそんなことを?」
「見てれば分かるさ」
「困ってはいませんが、仕事がないのは事実です」
「そんな君に、いい仕事を紹介しよう」
「なら、アレクに言ってください。私は彼の選別した仕事しかしないことにしているので」
「どうして?」
「それが彼と私の間でのルールだからです」
「殺しちゃ駄目なの?」
「殺す価値のない人間ですよ、あれは」
「へえ、君は殺す価値があるかどうかで人を見るんだね」
「失礼。あなたにとって、という意味です」

 紅茶のカップを手に取り、男から視線を外す。食えない男。初めて話した時からその印象は変わらない。

「あれはなんなんだい?」
「その質問には以前お答えしたはずです」
「さっきの、君にとっては殺す価値がある人間だということだろう?」
「殺してしまったとしても特に問題はないですね。感情的には」
「感情的にはねえ」
「でも、彼の世話は私に必要なものですし、彼をもしあなたが殺すとして、その時あなたの戦いぶりを楽しむこともできないというのはもったいない話です。あなたが他人を殺す時、私は戦っているところを見たい」
「君が相手してくれればいいのに」
「まだ駄目ですよ。そうでしょう」
「そんなに焦らさないでくれよ、
「ふふ、ヒソカさん。あなた本当に子供ですね、ふふふ。かわいいです」
「我慢が効かない体なんだ」
「ええ。いつか」

 私は一度そこで口をつぐむ。目が合うとヒソカさんはその美しい顔を少し傾けて、先を促すように口元の歪みを広げた。  人を殺すということに価値などない。だからこの男は狂っている。そしてそれを自覚した上で、人殺しをするのだ。そう考えるとたまらなく愛おしかった。自身の欲望に逆らわないこの人はまさしく子供であり、そんな男をめちゃくちゃにしたいとさえ。

?」
「はい。いつか、殺し合いましょうね」
「もちろん」
「アレクを呼びましょうか?」
「いいよ、君の判断じゃないなら」
「そうですか。残念です」
「今日は何人殺したの?」
「さあ、覚えていませんね」

 私が微笑みかければ彼も笑う。不器用な笑顔だ。とてもきれい。人を、殺したいと思うなんて、私は異常なのかもしれない。