そして守護者は目を閉じる

 終わってしまえば呆気ないものだ。普段の仕事と比べれば特別多いというわけでもない死体を見て息を吐く。

「お怪我はございませんか」
「もちろん。あなたは?」
「お嬢様のおかげでございます」
「よかったです。それにしてもあの方は強烈ですね」
「まさか自ら戦われるとは」
「ええ、よほど憎かったのでしょうね。昔からそうでしたけど」

 洗脳だと言っていたが当然そのようなことはしていない。私だってあの男に好かれて迷惑していたのだ。だがまあ、私のような気狂いを好きになるわけがないというのには全面的に同意する。
 とはいえあの女も私のことなど何も知らずにあのようなことを言っていたのだろう。人を殺す時点で狂っているのだと言うならマフィアはどうなる? あの女は単純に「家」を嫌っていたのだと思う。もっと言えば私の両親を。たぶん婚約をした時はまだ分かっていなかったのだ。あの一家は本当にかわいそうだったと他人事のように考える。

 死体でも片づけるかと思ったところで突然、とてつもないオーラを感じた。……ああ、彼が来た。顔をドアの方に向けると見慣れた笑顔、しかし、いつもよりも重い空気だ。今日はよく嫌な予感のする日だとやけに冷静に思う。近くに立つアレクの空気が揺らぐ。

「お疲れ様」
「大物だなんて。当たってほしくないですね、嫌な予感は」
「まだ殺してなかったんだね」
「ええ。今日はどうしたんですか?」
「そろそろかと思ったんだけどな。残念だよ」
「セリフと態度が一致していませんよ。相当溜まってるんですね」
「そうさ」

 男はゆらりと上半身を揺らして、トランプを取り出した。その途端オーラ量が増す。抑えていても殺気というのは誤魔化せない。私が小さくため息を吐くとそれを合図にして彼のトランプがアレクに向かう。全て返そうとするがそれらにオーラがくっついていることに気づき咄嗟にアレクの手を引いた。あれはまずい。投げ飛ばす形になってしまったがアレクは無事だ。

「自室に戻って、アレク」
「は、……はい、かしこまりました」
「つれないねえ……
「人のものに手を出さないでください」
「あれは君のものじゃないだろう?」
「今は私のものです。少なくとも、あなたのものではありません」
「くっくっく。本当にそうかな?」
「!」

 おかしい。
 全てのあれを避けたはずだったのに、今さらそれを認識しても遅い。彼の指先から伸びているのはゴム状になるというオーラ。アレクは今自室前にたどり着いたところだ。しかしその体のどこにもオーラは貼りついていない。はったり。

「君はどうしても右側が死角になる。覚えておいた方がいいよ」

 すぐ横で声がした。息を飲む間もなく全身に衝撃が走る。何かに背面を打ち付けられ、歯を食いしばった。すぐに姿勢を正すことはできたがしかし、その隙が致命的だった。男がいない。立ち上がると意識が飛びそうになる。頭をやられた。なんとか走り出すことはできるが目玉がなかなか回復しない。アレクは。すぐに男の背中が見える。ああなんてそっくりなのだろう。私に向ける歪んだ笑顔はまるで……。
 考える前に目玉が動く。どうにかアレクの腕を確認しそれに巻き付いて引っ張り出すところで部屋にたどり着き、わざと私が来るまで待っていたというようにアレクの近くに立つヒソカさんを見る。

「ほら、

 クローバーのクイーンが、投げられる。駄目だ。思考が体に追いつかない。反射的にそれを弾き返したことで目玉の一つにオーラがつけられ、私は口元を歪ませる。オーラのもう片方はアレクの胸部に貼りついていた。

「アレクシオス」

 たくさんの目玉が彼の目を見る。目が合う。そのどれもを男はまっすぐに見ている。悟ったかのように静かに見つめ返してくる。お嬢様。小さな声だった。