流れ出る思ひ出
過去に一度記憶を調べてもらったことがある。詳しいことは覚えていないが、幼馴染で仕事仲間の女性が能力を得たと言うので試しにやってもらったのだと思う。その時に彼女の言った天使の特徴があまりに合致するので能力は本物なのだと納得できた。みんなの前では天使のことのみに留まったが、二人の時に何かしら話された覚えがある。
それはねあなた、
頭の中で流れる女の声はいつも途中で消える。風で窓ががたがたと鳴る。引きずるような音然り揺れ然り、この窓はもう古くて諸々駄目になっているのだろう。いい加減直した方がいいかもしれない。特に気にしていなかったがこうもうるさいとさすがに腹が立つ。雨から何もかもを遠ざけるため閉じていた薄布を開き、窓を引く。ぎい、がたがた。ぎい。
欲しいのね。
ふと女のセリフの一部が聞こえる。こうやって意味の繋がらない程度に思い出されることが多くて困る。はっきりとした文章にはなってくれそうもなく、ただ消えるだけだ。未だどんよりと灰色の広がる空と時々吹く風。嵐のようだ。雨は止んでいるがいつまた降り出すか分からない。私は裸足のまま窓の外に出てコンクリートを踏んだ。室内よりも湿った感触。アンクレットが揺れる。
雨。雨の日。嫌いではなかったはずなのに、嫌な気分になる。出会ったのが雨の日なら別れたのも雨の日だった。きっと。自分の手が知らず空に伸ばされているのに気づく。私はあれに再会したいのだろうか。あの光に。あそこを抜け出した今でも眩しすぎるであろう存在に。伸ばしていた手をそのまま柵に下ろす。昨日の雨が乾ききっていない。
そんなことあるわけねえだろ?
はっとする。空を見上げても暗い雲が佇んでいるだけ。もちろんみんな私の見た天使の存在を否定した。でもそれは初めだけだ。私の力を見れば納得していたようだったし、そうでない人も、天使とかは知らないが妙な力を手に入れたことは確かだというようなことを言った。彼も例外ではなかったはずだ。分かっている。天使などいない。けれど私はこの目で見たし触れることも話すこともした、その結果こうして力を得た。だから彼が否定したかったのはそんなことじゃない。ならば……。握った柵の錆が手のひらに食い込んでいる。このまま力を使えばこんな柵すぐに壊せるだろう。手を離す。細かい屑が雨水と共に手のひらに付着する。
「あ……」
見ると人差し指の第一関節に少量の血液がにじんでいる。ささくれ立った金属が引っかかったのだろう。周りの肉を押すとどんどん粒が大きくなる。赤い。赤いことが分かる。親指でそれを拭い、私はまた空を見上げた。
着信を告げるケータイを手に取る。ああ、そうだった。耳に当てると懐かしい声。懐かしく、思えるもの。
『久しぶりね。どうしたの?』
「頼みたいことがある」
『何かしら』
「今週末バーで、いい?」
『……ええ、大丈夫よ』
「ありがとう」
振り向いて窓を閉める。厚い雲の間からは光など漏れない。ケータイをベッドに放り、私は浴室に向かった。