ラブコールはぬくもりと共に
ひどく酔っていたのだと思う。家にたどり着けたのが奇跡だったと後で思えるくらいに。実際飲みの席での後半の記憶がない。まあ女友達相手だからそこまで酔えたのだけど。
久しぶりに会って飲もうという話になり、そりゃ昔馴染みだしね、とすぐに了承したはいいものの、私以上によく飲む人で、つい私も調子に乗って飲みすぎた。いつもはワインをちょこちょこ飲むだけでほどよく酔って帰宅するのに、それはもう色んな酒を飲んだ。煙草もびっくりするほど吸った。喫煙者相手で我慢がきくはずもない。そんなの酔うに決まっている。強固な理性が消えかかっていた。
鍵がささらない。違う鍵をさす。入った。回らない。がちゃがちゃとうるさい。そのうちめんどくさくなって、ため息を吐いた。ドアが開く。ああ、彼だ。彼だ。彼は私の状態をすぐに理解できたようで、何か言いながら腕を引いた。まともに歩くこともできていないのにその時の私はなんとなく自分の意識がはっきりしているつもりで歩いていた。よく言われるが、酔っ払いは自分を酔っ払いだと認識できていないのだ。
彼が鍵を閉めた音がする。
「煙草……」
私は荷物をその場に置いてベランダに出た。あれだけ吸ったのによく気持ち悪くならないものだとふわふわした頭の片隅で思う。一本吸い終わる前に火を消し、室内へ。完全に酔っ払いの行動だ。煙草が吸いたかったんじゃない。歯を磨くために洗面所に行った。口の中がキシリトール臭くなるが、ニコチンよりはマシだろう。ソファーに座ってこちらを伺っている彼のところに行く。心配しているのだろうか。まあ深夜に帰ってきたと思ったらドアをがちゃがちゃやったり、煙草を一瞬だけ吸ったり、かと思えば歯を磨いたり、落ち着きのない行動をしていたら心配くらいするかもしれない。やはりその時の私はあくまで平常通り動けていると思っていたのだが。
彼の隣に座り、首に腕を回す。何をしているんだと言う自分と、仕方ないなあと言う自分がいる。
「飲みすぎです」
「分かってますよお」
「全く、よくそれで帰ってこれましたね」
「うふふ。帰巣本能ってやつ?」
「酔っていてもそれは分かるのか……」
「ねえ師範」
「はい」
「私ずっと好きです。師範は、大人だから、わかんないかもしれないけど」
師範。最近になってようやく名前で呼ぶことになれたが、ずっと私は彼を師範と呼んでいた。気が緩むと途端に子供に戻ってしまう。幼児退行、というやつ。幼児退行したら口がいつも以上に軽くなる。きっと私はこうなりたくないから飲みすぎないようにしていたんだと思う。
「大好きだから……嫌いになんないで……」
こんな言葉を吐きたいだなんて。これが私の本音だったなんて。ああそうだ、いつも困らせるだけだからしまってきたんだ。これが全てだ。
「嫌いになるわけないでしょう」
背中に回る腕と、耳元で響く心地よい言葉。どうして信じられないのだろう。暖かすぎて、私には都合がよすぎて、不安になる。涙がこぼれる。信じていないわけではない。信じているからこそ怖いのだ。何を怖くなることがあるんだ? そう思っても、怖いものは怖い。ずっと好きだったのだ。片思いをこじらせてしまった。言い訳だ、全部。
少しずつ酒が抜けていくのが分かる。冷静になってみてどうして抱きつけたのか分からない。彼もなんのためらいもなく受け入れてくれたように思う。だから……。本当に、信じられる日が来るのだろうか?
私は、しばらく彼のぬくもりに浸っていた。