夜景へエスコート

 普通のデートというものがどんなものだか私にはいまいち分からない。たぶんあれを普通のデートって呼ぶんだろうなと思うものもあるにはあるが、いかんせんそういった男女の付き合いに疎い同士なので、積極的にやろうとはしなかったのだ。私も彼もあまりアウトドアなタイプではないし、それなら家でいいのでは、となってしまう。彼が過去どうだったのかは知らないが、私は彼以外の男と付き合ったこともない。
 たぶん、ショッピング、ドライブ、映画、水族館、動物園、ってとこか。食事なんかも含めるのかもしれない。夜景とか? 想像がつかないというか興味がわかないな。
 どうしてそんなことを考えているのかと言えば、デートに行くことになったからだ。ウイングさんとではない。彼とならどこに行くのだって興味深くて、一日では足りないくらいだろう。

「一応確認したいんだけど」
「ん?」
「そっちから誘ってきといてまさか私が全部払うってことないわよね」
「そりゃ今日ぐらいおごるよ。君から貢がれたお金あるしね」

 言い方が悪い。貢いだつもりはないぞこの野郎。
 お金を払い続けていたのは一種のけじめみたいなものだ。会う時必ず指輪をしていって、行為の前に外すのも。私はシャルナークを好きにはならない、依頼人の立場だと。そしてそのことをこいつも分かっているのだと思っていたのに、何がどうしてデートなんかに行かなくてはいけないのか。理由は説明されていない。不満なのとは違う。怒りに近い。
 いつもの場所で待っていたら、今日はデートだと言われた。いつもは日が変わる前くらいなのにやけに待ち合わせ時間が早いなとは思っていたが、仕事の都合もあるのだろうし特に疑問には思わなかった。その結果がこれだ。現在私は車でどこかに連れ去られている。

「私いつになったらキレていいの?」
「なんでキレてんの?」
「なんでキレないと思うの?」
「暇つぶしの相手だと思われてる自覚があるから」
「そうは思ってないけど、セフレでしょ。だからデートって意味が分からないんだけど」
「ヒソカとはデートするのに?」
「ヒソカは友達だもの。デートじゃないわ」
「じゃ俺も友達」
「何言ってんの?」
「元がセックスフレンドなんだし、大差ないよ」
「大ありだわ」
「君ってそういうとこあるよね」
「どういうとこよ」
「変なルールに従って生きてる」
「それは認めるわ。そのルールの上ではあなたは友達ではない」
「昔はかわいかったのになあ」
「二年も前のことを言わないでよ」

 こいつとの言い合いはらちが明かない。諦めてシートに体を預けた。そもそもシャルナークのことを友達だと思っていたらセックスなんてしないし、そこでヒソカを出すのはお門違いだ。この男は相手を多少変な理論ででも言いくるめたがる傾向がある。私もそういうところがあるから分かる。そして私相手だとそれが通用しないということをこいつは理解している。それでも言い合いを楽しんでいると言うならどうしようもない。
 しばらく大人しくしていると、どうやら目的地に着いたらしい。シャルナークが降りたのに合わせて私も車を降りた。

「俺君と違って普通のお付き合い知ってるんだよ」
「根に持つ男は面倒よ」
「まあそれは冗談だけど、なんか君の話聞いてたら、旦那さんってこういうとこ来るタイプの男じゃないんだろうなと思ったから」
「だから連れてきたって? 失礼な話ね」
「これが俺の感情表現だと思ってよ」
「お金に困ったらあんたを頼ればいいってことは分かった」

 高級レストラン、窓際の席で、礼装のイケメンと向かい合う。きっと誰もが羨む状況なのだろう。これで心が動く人間じゃなくて本当によかった。デートだなんて言うから身構えていたけど、私自身にその気が起きなかったからいつも通りだ。
 ディナーのコースを選ぶシャルナークの口を見つめる。