楽園の隅
たとえば、ご飯を食べている時、彼は足を組む。それにしては歪んでいない背筋を伸ばし礼儀正しく食事をとる。周りの男と比べると高すぎない身長と、筋肉質すぎない体は彼を抑えているように思える。彼をというよりは、彼への私の印象を、あるいはそのどちらも。外見が特に優れているとは言えない。それでも私の中で一番は絶対にウイングさんだ。その確信が私をここで立ち止まらせている。
彼は本当に、私の中の変化に気づいていないのだろうか。気づかせまいとしているというのに、どこかで何か期待のようなものを抱いている。馬鹿馬鹿しいと笑われても構わない。今まで過ごしてきた中での彼は、理屈でものを考える頭脳派というよりも勘の鋭い人間だった。こちらが説明するより先に理解できている。感情の上下はもちろん身体の成長まで、自分で気づいていないことも彼には分かっていた。単に私の隠す力が上回ったのだろうか。いや、けれど私は何も隠していない。感情を隠せるタイプではない。何もかもを、聞かれたら白状するだろう。それを分かっていて何も聞いてこないというのか。……そんな馬鹿な。
そんな馬鹿な。
「……なんですか?」
「えっ?」
「そんなに見られたら私でなくとも気づきます」
「……あ、っとその……」
分かっていない顔に見える。分かっていることにも気づいていないのかもしれない。目を合わせられない。顔を上げたら目が合う。あんなに見つめられているわけでもないのに。
「視線が」
「視線?」
「……いや、なんていうか。ちょっと今頭ごちゃごちゃしてて」
「最近考え事をしていることが多いのは、そのせいですか」
「そうかもしれない……」
「何か心配なことでも?」
「いえ、まあ」
「無理には聞きませんが」
「……話せる状態になったら聞いてください」
「もちろん」
この人は私の変化自体には気づいている。ただそれが何だか具体的なことまでは分かっていなくて、なんとなく何かあったんだろうなと思っているのだ。やっと理解した。そんな人に私の懺悔など始められるわけもない。結局私はまた口をつぐむ。不安なんだろうな。心配なんだろうな。私の心配事を聞いて解決してくれようとしているんだろうな。空気に耐えられなくなって私は自室に戻った。
ケータイに手を伸ばす。誰に連絡するのと誰かが私に聞く。誰にも連絡しない。ただ手にとっただけだ。ならこの焦りはなんだ? 落ち着こう。煙草を吸いに行くか。いや今部屋に入ったばかりなのにベランダに出たら何か思われるかもしれない。どうして部屋に灰皿を置いておかないのか。ため息を吐く。
彼の足を思い出す。あいつの背中を思い出す。あの男の腕を思い出す。今まで私を抱いた男たちの体をそこに並べる。そして彼の姿が一番薄いことに気づいてしまう。吐きそうになる。
手遅れだった。何もかもが。気づいてからでは、遅かった。
声を殺し、シーツにしわをつける。