渦巻いた純粋が追ってくる

 報告書を提出しに行ったあと、自室に戻って少し仮眠をとった。そうして夜になってから、テーブルを片付けるついでに書類の整理をしていると、またドアがノックされる。来客の多い日だ。
「王室執事フォスターにございます」
 立ち上がってすぐ名乗られたので、用件を察し内心ため息を吐く。ドアを開け、見覚えのある赤毛を見上げる。
「こんばんは」
「お休みのところ、申し訳ございません。王子よりお手紙を預かってまいりました」
「ああ……」
 差し出された封筒を受け取り、癖で裏側を確認する。そこにはもちろん、先日見たばかりの筆記体があった。
 執事が帰り、ドアを閉めて今度はきちんと息を吐き出す。通常郵便物は、寮に届いたものを騎士見習いが仕分け、部屋に届けてくれる。先日も思ったがどうしてわざわざ部屋まで来るのだろう。王子の指示かどうかだけ聞きたい。
 椅子に座り封蝋を剥がす。カリバーンの言い方からして、目が覚めるまで傍についていたのだろう。その後休息はとれたのだろうか。すっかり冷めたコーヒーを一口飲み、手紙を開く。

 ──へ。よく眠れただろうか。
   君のことだから、もう見舞いには行ったのだろうが、カリバーンは無事に目を覚ましたよ。
   君が心配していたと伝えたら、喜んでいた。

 喜ばなくていい。そのあと、何行か改行されている。

 ──何を書くか、戻ってくるまで考えていたのに、たくさんあって、
   ごめん。

 謝罪の一文の前後に、インクが滲んでいる。

 ──君を泣かせてしまった。

 改行の、隙間から、彼の感情が伝わってくるようで、唇の内側を噛む。勝手に泣いただけなのに、どうしてここまで苦しんでくれるのだろう。

 ──俺は、君のことを、何も知らないんだ。君が……どうしたら、笑ってくれるのかも。
   こんなに長い時間、共に過ごしてきたのにな。
   だから、どうか、教えてほしい。
   君のことを、いくらでも。

 とうとう、堪えきれずに滲んだ涙が頬を伝った。

 ──情けない男だ。本当にすまない。
   頼んでばかりだが、俺に君の時間をくれないだろうか。すこし……では、足りないかもしれないけど。
   夕飯を済ませた後にこれを読んだなら、この後の文は無視してくれ。
   もし、夕飯を済ませていなかったら、そうだな、君さえよければ、どうだろう、一緒に。

 迷ったのだろう。ひと単語に一つは、インク溜まりがあって、笑ってしまう。
 一度手紙から顔を逸らし、服の袖で目元を押さえる。

 ──八時頃までに、図書室に来てほしい。そうでなければ、自室に戻るから。もちろん、来なくてもいい。

 はっと時計を見ると、七時を過ぎたところだった。もう一度手紙に視線を戻し、急いで続きを読む。

 ──謝罪すべきことばかりで、君を困らせたかもしれないな。それも含めて、ごめん。
   読んでくれて、ありがとう。
   じゃあ、また。

 頭から、通して読んでみる。八時頃。やはり、手紙というのは、変わらないものなのだ。深呼吸しながら、手紙を畳んで封筒にしまう。何を着ていけばいいのだろう。とにかく顔を洗って……軍服でいいか。私服よりは浮かないだろうし。
 動悸の治まらない胸元を押さえ、窓の外を見る。想像以上に熱心で相手思いの、やさしい人だ。分かってはいたが、つまり、実感があった。未だ熱い瞼を手のひらで覆い、それから私は、準備のために立ち上がった。


 図書室に辿り着き、息を整える。いつの間にか小走りになっていたらしい。
 城にある図書室は、図書室というよりは巨大な化け物の口の中のようだ。天井が高く、ドームの形をしており、本棚が歯のように所狭しと並んでいる。以前訪れたアカグラの者は非常に驚いていたし、全国民が利用できる王立図書館はもっと質素なので、ここが異常なのだろう。
 これだけ広いと、動いている人間を探すのは大変だ。受付まで行き、守衛に声をかけようとしたら目が合ってしまった。
「あっ様!」
「あ、ああ」
「王子とお待ち合わせですよね」
「え」
「もしいらっしゃったら、裏庭にいると伝えてほしいって」
「あ、そ、そうなのか?」
「場所ご存じですか?」
「あっちから出れたっけか」
「そうです! えーと地図は」
「ああ、いや、大丈夫だ。自分で探すよ」
「迷ったらまたどうぞ!」
「ありがとう」
 元気に挨拶をしてきた守衛に片手を挙げることで応え、奥へ歩き出す。裏庭というのは、図書室とガラス戸で仕切られている庭で、テーブルとベンチが設置してあり、屋根もある。そこまで本を持ち出してもいいことになっていて、昼間などは談笑する姿を見かけることも多い。
 白い光の反射がちらつき、場所を確認する。窓の向こうは存外明るく、本を読むために遅い時間もつけているのだろうと思った。ドアを開けると軋む音がして動悸を自覚する。
 はっきりと、発光している。
 裏庭に出てすぐに、彼のいる場所が分かった。ドアの音で気づいたのか、彼は、私の方を向いた。そして、いつもの笑顔。

 足が動かなかった。どうしたらいいのか、私には分からなかった。グリップを握ろうとして、帯刀してこなかったことに気づく。その永遠とも思える間は、彼がこちらに来るには充分すぎたらしい。
?」
 彼が、俯いた私の顔を覗き込むように少し屈む。
「プリトヴェン」
「ん?」
「その……」
 足元から目の前に視線を移す。休みだからか、王族の騎士服を着ていない。
「よんだ」
 どうにか出した言葉に、彼が笑ったのが分かる。
「ありがとう」
 それから、視線の先に手のひらが現れ、思わず顔を上げた。
「え、」
「あ」
「あっ嫌とかじゃなくて」
「う、うん」
「……どうして?」
「……君の……君の手を、引きたいから」
 どうして。
「はは……気障だったかな」
 私を気遣ってくれたのだろうとは、分かっている。
 何も言えずに数回呼吸をする。そして、律儀につけてきてしまった手袋を外し、恐る恐る、そこに手を置いた。硬い皮膚と、ぬくもり。優しく握られ、息苦しさを羞恥心が越えてしまう。
「嫌じゃない?」
「え、あ、ああ」
「か……顔、赤いな」
「しっ、かた、ないだろ!」
「はは……かわいい」
「はっ?!」
「あ、ご、ごめん! こういうの、嫌だよな」
「い……おまえ、……そ、そういうことは、易々と口にするべきじゃない」
「わ、分かった。ごめん」
 何が分かったなのかは知らないが、分かってもらえて何よりだ。かわいい。かわいい……? いや、兄というのは妹をかわいいと思うものなのだろう。手を引きたいのも、顔が赤いと指摘するのも……。
「あのさ……また、怒るかもしれないけど」
「……なんだよ」
の、ええと……照れているところも、知れてよかった」
「お、……おまえ」
 絶句という表現が正しいだろう。驚いて言葉に詰まる私に、プリトヴェンは続けた。
「……知らない面を、たくさん見たいんだ。今……帰ってもいいよ。君が、本当に嫌なら」
「……本当に嫌だったら、ここに来てない」
「……そうか。よかった」
 嬉しそうに笑う彼に、今度こそ黙るしかない。ここに来た時点で拒絶する権利はない。あるけど、ないのだ。私は一体どういうつもりでこの人と接すればいいのだろう。こいつは、どういうつもり、なのだろう。感情の渦に飲まれそうになる。繋がれた手を、視界に入れることができない。
「ところで、お腹は空いてる?」
「あ……ああ。どこで食べるんだ」
「この間と同じだけど、テラスでいいかな」
「ああ」
「じゃあ、行こうか。本返すから、出たところで待ってて」
「手伝う」
「はは、大丈夫だよ」
 手を繋いでいるところなど、他の人間に見られたら大変なことになる。ゆっくり手を離した彼は、代わりのように頭を撫でてくれる。その手が離れていき、気を遣わせないために一歩後退する。
 ああ……妹でもいいのだろうか。ああして撫でてくれるだけで、私は……。


 母は、アースガルズの武器職人の娘らしい。育ての母が言うには、アースガルズ近郊にて討伐任務中だった父に命を救われ、恩義を返すためアヴァロンに通い、その姿に感銘を受けた父が交際を申し込んだと。父は私が知る限りでは無口で頑固な男だが、母──当時恋仲であったあの人と会う日は、そわそわしてまるで子供のようだったらしい。
 母がどんな人物であったのか、私にはもう分からない。きっと健気で、まっすぐな女性だったのだろう。私は、二人の血を引いているのだなとだけ。
 テラスは、時間帯が違うと随分雰囲気が変わる。じいやがプリトヴェンの後ろにいる私に気づき、表情を明るくした。
 育ての母の配偶者とはいえ、昔から王室の執事として働いていたじいやとはあまり接した記憶がないのだが、じいやは私に対しそれなりに情があるのだろう。一方的に知られているようでいつも少し気恥ずかしい。
「これは、様」
「ああ」
「お役立ていただけたようで、幸甚にございます」
「え、ああ……あれ以来書いてはいないが、ありがとう」
「よいものでしょう」
「……本人の前で言うのは憚られる」
 じいやは笑って、私たちを席まで誘導した。メイドが私の椅子を引いてくれる。ふと上を見ると星々が煌めいていて、パラソルがしまわれていることに気づく。
 メイドとじいやの二人しかおらず、これも私が緊張しないよう配慮してくれた結果なのだろうかと思う。出された水を口に含み、離れていった二人に視線を向ける。
「実は、俺に手紙を勧めたのも彼なんだ」
 と、向かいのプリトヴェンが言った。
「そうなのか」
は元気かって聞かれてさ。あまり会えていないと言ったら、手紙でもと言われてね」
「お節介なやつだ」
「君のことを案じてるんだよ」
「そのためだけに王子に手紙を書かせるなんて」
「はは。乗せられてしまった」
「……そうだな」
 乗せられた。プリトヴェン自身が思いついた行動でないことに安心してしまう。
 酒が注がれるのを眺め、久しく酒を飲んでいないことを思い出す。酒はどうも好きになれない。若い頃は騎士団の連中と飲んだりもしたが、別に酒を飲んだところで楽しくないし、人は常に理性的であるべきだ。味も苦手だが。
「ジュースだから、大丈夫だよ」
「えっ」
「お酒は苦手じゃなかった?」
「ま、まあ……知ってたのか」
「はは……そのくらいはね」
「プリトヴェンも苦手だろ」
「俺は、飲む機会があるから……でも、今日は君と同じ」
 プリトヴェンはそう言って、グラスを持ち上げた。慌てて、こちらも持ち上げる。どうも違和感があると思ったら、普段よりもテーブルが小さいせいで近いのだ。
「乾杯」
 グラスが当たり、音が鳴る。口に含んでみるが、確かにアルコールを感じない。マスカットか何かだろう、すっきりしていておいしい。
 それにしても、知りたいと言われたところで私はどうしたらいいのだろう。ゼリーの塊が出され、フォークを持ちながら何を言うべきか考える。そういえば、カリバーンになんで泣いたのか分からないと言われたのだった。たぶん、いや確実に、プリトヴェンも理解していないだろう。とはいえ、理由の説明はほとんど告白と等しい。
「そういえば、カリバーンに会った?」
「ん? ああ。ぴんぴんしてた」
「はは、君には気を許してるからな」
「まあ……かわいい弟だよ」
「あいつは……他人に興味がないみたいでさ。問題があるわけじゃないけど……君に懐いているのを見ると、安心するよ」
「なつ……かれては、まあ……」
 不名誉だが、兄が安心すると言うならいいか。ゼラチン質を飲み込み、一旦フォークを置く。
「……子供のように思うのはよくないよな。怒られたよ」
「子供扱いするなって?」
「そんな言い方ではなかったけど、俺も大人なんだからって」
「ああ……」
「君も思う?」
「え? お前に?」
「そう」
「私のことは子供扱いしてないだろ?」
「どうかな、してるつもりはないけど」
「まあ私の方が年下だし、されても気にならないが」
「そうなんだ」
「なんで?」
「子供扱いは嫌いだと思ってた」
「相手による」
「そっか」
 子供扱いされていると思ったことはない。昔から何もかも下なので、気にならなかっただけかもしれないが。
 もちろん、単に身長とか、女であることから私を見下している相手からのガキ扱いは腹立たしいが、プリトヴェンはそうではないだろう。というか、こいつにされて嫌だったことなど今までほとんどない。小さい頃はあったのだろうけれど、覚えていないしどうせ些細なことだ。
「妹だと思ってるわけじゃないんだけど、つい、妹みたいに接してしまうな」
「え?」
「君は、カリバーンと仲が良いから」
「よくない」
「はは」
 無意識のうちに妹弟のように扱ってしまうということだろうか。パンをちぎり、その白く柔らかい筋を見る。
「私も、カリバーンのことは弟だと思ってるし……あなたは、兄みたいなものだ」
「……よかった。王子としか思われてないんじゃないかって、心配だった」
「え、……いや、私から言うのも烏滸がましいが、幼馴染だろ」
「でも、俺といると……よそよそしいから」
「……あなたといると、緊張する」
「そ、そんなに高圧的かな」
「高圧的ではない」
「うーん……やっぱり、立場? 気にしてほしくないんだけどな」
 本当のことを言うわけにもいかず、黙々とパンを口に詰め込む。元々食事には興味ないが、今日は一段と味が分からない。
 その後昨日の討伐の話になり、新種について報告書に書いたことを述べておく。無心で食べていたらいつの間にかデザートも最後の一口になっていて、脳が仕事に切り替わっていたことに気づく。
 行儀が悪いのは分かっていたが、テーブルに肘をついた。メイドが紅茶を淹れてくれるのでそこから目を逸らし、遠くの空を見る。
 私は、こいつといると緊張してしまう。高圧的だからでも、王子という立場に怯えているのでもない。いつだか自身の緊張に気がついて、それからしばらくして、その理由が分かってしまった。
「あのさ」
「ん?」
「私のことが知りたいって言ってただろ」
「ああ」
 星は煌めいている。肘をつくのをやめ、テーブルの上で手を組む。
「……プリトヴェンは、私が嘘をつくと思うか?」
「え? 思わないよ。……どうして?」
「……嘘をつかないからって、全部話しているわけじゃない。お前が嫌だとか、信用していないとかじゃなくて、……言えないんだ」
 口に出して、どれだけ滑稽なのか思い知る。何を語っているのだろう、私は。熱い紅茶が喉を通って、胃まで落ちるのが分かる。
「……今だから?」
「分からない。ずっと、言わないつもりでいる」
「カリバーンには言えること?」
「え、いや……自分からは言わないな」
「……もしかして、俺が鈍いって話?」
「……あいつになんか言われたのか?」
「そうか……前にね」
「……」
「聞いていい?」
「……答えられることなら」
「兄みたいって、兄だとは思ってないってこと?」
「……兄、では、ないだろ」
「カリバーンは、弟なのに?」
「……」
「ごめん。……でも、よかった」
「……え?」
 プリトヴェンが不意に立ち上がり、座っている私の傍に片膝をついた。
「え、な、」
「このテラス、意外と奥まであるんだ。……一緒に、来てくれる?」
 また、手が差し出される。たぶん、じいやたちに会話を聞かれないために移動するのだろう。ああ、駄目だ。死んでしまうのではないかというほど顔が熱い。そういうこと。そういうことなのか。私は、この手をとらなくてはならない。
「私は……喜んでいいのか」
「はは……喜んでくれたら、俺は嬉しいよ」
 とにかく、王子をいつまでも自分より低い位置にいさせるわけにはいかない。自分の手をそこに乗せると、先ほどよりもしっかり握られた。立ち上がった彼に引かれるように私も立ち上がる。本当に嬉しそうに彼は笑って、私の手を引いた。
 テラスの奥は庭園のようになっていた。小さい噴水があり、ベンチも設置されている。
は、カリバーンのことが好きなんだと思ってたんだ」
 アーチをくぐったところで、プリトヴェンが呟いた。
「はあ?!」
「はは……いや、なんて言えばいいかな。付き合ってるとか、そういう風には思わなかったけど……なんとなく、将来的にそうなるんじゃないかって」
「……それ、本人に言ったか?」
「はっきりとは言ってないけどね。そしたら、鈍いって言われた」
「そりゃ、そうだ」
「ごめん……でも、まあ君はいつも否定するけど、昔から仲が良いだろ。になら……違うな。カリバーンになら、を任せられるって思ってた」
「任せないでくれ……人の弟に言うことじゃないが、本気でいらない」
「そう邪険にしないでやってくれよ」
「別に、弟としてはかわいがっている」
「うん。……君はそういう子だよな」
 どういう子だ。彼が立ち止まり、こちらを向いた。

「ん?」
「俺は、君のことが一番大事だ。でも……ごめん。あまり、恋愛のことは分からなくて」
「あ、ああ。そうだろうな」
「弟に言われるまで、君の気持ちを勘違いしていた」
「それは……別に問題ないけど」
「情けないだろ。だから、君が苦しむ理由も分からなかったんだ」
「……」
「ごめん」
「いや……」
「……君を……失いたくない。ずっと……」
 夜の暗さが瞳の緑を深くしている。繋いだ手が熱い。初めて見る表情だった。照れているのか、困っているのか、眉を下げて微笑んでいる。
「……ずっと、俺の傍にいてほしい」
 告白のセリフというよりは、願いをただ言葉にしたみたいな声色。もしかしたら、私はこの人の内側をほとんど見たことがないのかもしれないと思った。
「……妹としてしか、見てないのかと」
「昔はね。でも、やっぱり……一人の女性だから」
「……そうだな。そう……なのか」
「……君は、昔から悩んでいたんだろう。だから……これから、埋めさせてくれ」
「……ありがとう」
 責任を感じる必要はない、それをこの人も分かっているのだろうけれど、その上で言ってくれたというのが、ただ嬉しかった。恋愛感情かどうかも分かっていないのだろう。私だって、断言できる材料はない。
「抱きしめてもいい?」
「え……」
「嫌だったら」
「い、嫌じゃない」
「ほ、本当に?」
「う、うん」
「……わかった」
 彼は肩の力を抜き、手を引いた。彼の腕に包まれ、あの時のことを思い出す。情けないのは私の方だ。上品で爽やかな香り……。
「君は……こんなに小さかったんだな」
 腕を背中に回し、昔とは違う大きさを感じる。随分身長差が開いてしまった。プリトヴェンも小柄な方だと思うが、それでも女の中で小さい私よりは大きいし、何より肩幅がある。昨晩は……そう感じる余裕も、なかったのだろう。
「やっぱり、すごいな」
「……七光りとは言われたくないから」
「……君は強いよ。本当に」
 目を閉じる。額を彼の肩にくっつけ、息を吐く。心臓にまで温かさが伝わるような心地だった。いつまでも、続いてほしい。……それが叶わないと知っているのに願ってしまうのは、罪だろうか。