鳴らす喉奥

 あれからもう三か月ほど経つだろうか。気づけばボロボロになっているシーツを見て悲しい気分になる。疲れてそのまま寝てしまったらしい。シーツから手を離し、体を起こす。我に返ってからいつもやってしまった、と思う。
 うずいて仕方がない体をベッドに縫い付けることもできず、私は起き上がった。もう外が暗くなってきている。本当は開けるなと言われているカーテンを引き、それを確認してから窓を隠しつくすと少しだけ心が休まる気がした。
 あと二日ほどだろうか。今月も……また。半端に開いた口から唾液が垂れて、服の袖で拭う。ついでに目の前の鏡を見やると随分あの時見たものに近づいてきていた。

「ああ」

 ため息を吐こうとして声が漏れる。鏡を見ながら指先で意味もなく犬歯を押す。癖か。そろそろ口内に刺さって痛いのだが、これはどうしようもないと分かっていた。昨晩言われたことを思い出し、指を見ると細かい傷がたくさんついている。そろそろこの爪も凶器になるのではないか。それから無意識のうちに髪を撫でつけていたもう片方の手を見ると、がさがさの毛が何本か絡まっている。

「あー……」

 枕の周りにも落ちていたことを思い出し、少しだけ虚しくなる。しかし、これもどうしようもないことらしい。毛をゴミ箱に捨て、ベッドに向かおうとするもやはり机まで戻る。そうして部屋をうろうろしていると、ドアがノックされた。

「ザウルだ。入っていいか」
「……ザウル?」
「ああ。まだ大丈夫だろ?」

 部下の顔が浮かぶ。私の状態をどこまで知っているのかは分からないが、こうして部屋を訪れたのは私の部下になってから初めてのことだった。空腹感がひどいとは知らなかったようだけれどあれは知らないふりをしていただけだろう。ドアの向こうにどう返そうか思案しているとまた唾液が垂れそうになり、口を閉じる。

さん、分かった。ここで話すから聞いてくれ」
「……あ、ごめん……」
「昨日は悪かった。あんたが気分を害したかと思ったんだが、今日サロさんに連れまわされて来れなかったんだ」
「ああ……別に、なんとも思ってない。お前を部下にしたのは私の意志だ。でもそれをゴトーやサロは知ってるから」

 こいつはまだ盗聴を恐れているのか。まあこの部屋に来た時点で内容は筒抜けだと思った方がいいけれど。きっと車の中での会話は聞かれていないし、少なくともあの二人の前では気を張らなくてもいいのだ。少しだけドアの向こうの気配が緩む。

「一週間くらいだったよな」
「うん、一応」
「その……頑張れよ」
「ありがとう」

 足音が遠ざかっていって、私はようやく力を抜くことができる。まさかわざわざ謝りに来るとは思わなかった。あいつはあいつで罪悪感を抱え続けているらしい。私へのものだけではないのだろう。だから、ああして吐露するのを受け止めてやらなければならない。
 ベッドに戻り爪を傷だらけの壁に当てる。がりがり。落ち着く。ああ……もう諦めるしかないのだろうか。体はどんどん馴染んでいっている。ずっと昔からこうだったのではないかと思ってしまうほど。

「ああ」

 喉から漏れ出す声が、心に刺さる。