星はいつでも差し出されていた
マチと名乗った女の人はどう見てもヤンキーで、フィンクスと並んでいるとまさにヤンキーのカップルだった。そういうジャンパー着てる人いるよね。夕暮れが遠く街をオレンジに染めているのを眺めつつ煙を吐き出した。
二人は先ほど酒やら食べ物やらを持ってやってきた。名前だけ言い合って適当な会話をし、とりあえず煙草を吸っている。てっきり来月になるものだと思っていたから驚いた。フィンクスって意外とちゃんとしているんだな。まあ本当にちゃんとしている人なら来る前に連絡をよこすなりするだろうけれど、まずお互いに連絡先を知らない。
「同じの吸ってんのね」
マチがテーブルの上の煙草の箱を触りながら言った。それにフィンクスの方がああと答える。彼は来てからずっとどことなく落ち着かない様子でベッドに座っている。
「物好きだね、あんたは」
「物好き?」
「こいつといて楽しいの?」
「てめえ」
「楽しいけど、どっちかって言うと突然来るから」
「迷惑?」
「迷惑だったら入れないって」
「だってさ」
「うるせえ」
やはりからかわれているらしい。マチに何か言われるとすぐふてくされる。私はまた窓の方を向いてニコチンを体に入れた。ため息と共にフィンクスが立ち上がって煙草を取り出す。見ていたら吸いたくなったのだろう。
テーブルの上のウイスキーと惣菜。缶ビールは一応冷やしている。椅子に座っているマチと目が合う。見透かされそうな目だ。こちらの心の奥まで見えているのではないかと思ってしまうような。
「なんだい」
「なんでも」
気の強そうな人だと最初思ったが、よくいる気の強い女とは違う。男前だとか姉御肌と言った方が近い。目をそらし、煙草をベランダに投げる。踏みつけようとする前に窓枠に座っていたフィンクスがそれを踏んだ。彼の吐き出した煙が柵に当たる前に消える。
たぶん、口下手なフィンクスと違いマチは口数が少ないのだろう。でも別に気まずくはなかったしむしろ気にしなくていいから楽だ。話さなければと思うことはめんどくさい。それにどういう知り合いなのかも分かっていない私から振れる話題は少ない。今までフィンクスに聞けなかったことを初対面のマチに聞くのもおかしいだろう。
「コップは?」
「いい」
「はい」
マチの返答に、自分の分のコップと人数分のフォークを持ってテーブルに戻る。肘をつくマチとまた目が合い、今度は私がなに、と聞く番だった。
「ってさ」
「うん」
「そこらの馬鹿じゃないだろ?」
「……そこらの馬鹿?」
「ああ」
「それは……どういう意味?」
「なんであたしたちのことを何も聞かない?」
「……」
フィンクスはまだ窓枠に座って外を見ている。煙草はとっくに吸い終わっていた。マチの目が私を射抜く。そこから逃げるように思わず彼の背を視界に入れてしまう。彼には聞かれたくない理由だと思った。それこそばれたくない。すぐ彼の背中からは目をそらすが、マチには気づかれていた。
「フィンクス」
「ああ?」
「あんたちょっとどっか行って」
「なんでだよ」
「五分」
「……五分な」
「ああ」
マチの言葉で彼は立ち上がり、柵の方に向かってから思い直したように室内に戻ってきた。そのまま玄関から出ていく。今もしかして飛び降りようとした? まあ上から降ってくるような奴だしできそうだけど、三階から飛び降りるのはいくらなんでも……。ドアの閉まる音がして、マチが再び私を見た。仕方なく私は口を開く。
「どこまで知ってるの?」
「あいつからは、ここに住んでる女のために家具選びを手伝えとしか言われてない」
「マチ、センスいいね」
「大体あいつに選ばせたけどね。それで?」
「……私、フィンクスのこと聞いちゃいけない気がして」
「なんで」
「初めて会ったのは今から五年くらい前なんだけど、その時は名前も聞かなくて、それからこの家に越してきた時再会して……ずっとそういうこと聞かないでここまで関係続けてきたから、聞いたら何か変わっちゃうのかもなって」
「変わっちゃう、ね」
「実際そんなことないのかもしれないけど」
「まああんたはあたしたちのことを知らない方がいいだろうな。だからあいつも話さなかったんだと思う」
「そうなの?」
「でもあんたら二人の関係だけで言えば、聞いたところで悪い方に変わるとも思わない」
「どうして?」
「自分で考えな」
「……分かった」
そこまで言うとマチは立って冷蔵庫の方に行った。そして缶を一本取り出しすぐに戻ってくる。マチがそれを開けたので私もとりあえずコップにウイスキーを注ぐ。そういえば氷。
「あいつから女物の家具がどうのって聞いた時は気でも狂ったかと思った」
「それは、そうかもね」
「初めてだったんだろ、たぶん」
「初めてって」
「乾杯でもする?」
「……する?」
ぬるいアルコールが体を焼いていく。自分で考えろか。たぶん、考えたくなくて考えないようにしていることが正解なんだろうな。分からないけど。分からないから、先延ばしにしてしまうのだけれど。結論がはっきりしていないと落ち着かない性格だったはずなのにな。窓の外が紺に変わり始めている。ああ。……怖いのか、私は。