夜明けの色は掬えない
休日の午後三時、寝ていた私はバイト先からの電話に起こされた。今日の夜入れないか。予定のあることの方が少ないことはもう知られてしまっている。
「ごめんねちゃん、せっかくの休みに」
「いえ」
「困るよなあ。ただでさえ人足りてないっていうのに」
先月から私の入っていない曜日を担当し始めた人はよく遅刻をするらしい。こういう当日に突然欠勤するいわゆる突発というのは初めてだが、まああの人ならもう仕方ないかなとも。私が稼げる分には構わない。私よりきっと店長の方が大変だろうし。私が入れなかったらどうするつもりなのだろうといつも思う。あくびをかみ殺し制服に着替える。
一年経ったら別のバイトにしようかと思っていたのだが、もう一年になってしまう。どこで働きたいというのは特にないが、ずっとコンビニの夜勤ではやはり不健康ではある。健康を気にしていたらそもそも始めていないので実際そこまで気にしていないのだけれど。色々考えてまあ一年って潮時かな、と。でも今人が足りていないのに私がやめて、夜勤があと遅刻ばかりの人になるのはあまりにもかわいそうだ。商品を並べながら、レジに立つ店長を盗み見る。あの人も四十近くてこんなところの店長をやっているのだから大変だな。
「そういえば最近、結構な在庫ずれがあってさ」
「在庫ずれですか?」
客がもうほとんど来ない深夜二時。作業が一段落した私に店長から声をかけてきた。在庫ずれとはつまり発注数と売った数と在庫数がずれている、万引きやレジのミスが疑われる事態のこと。
「まあミスならまだいいんだけど、万引きに気づけてないとか見逃してるとかだと困るじゃない? ずれ方がちょっとミスってレベルじゃないっていうのもあるし」
「万引き対策とかされてるんですよね?」
「そりゃね。でもこのへんの治安考えたら、強盗とか気をつけなきゃいけないのかも」
「強盗……」
「まあ僕の知っている範囲じゃそんな大がかりなことは起きてないから、ミスなのかもしれないけど。それならそれで新人を疑っちゃうしなあ」
「強盗とかじゃなくて普通に盗まれてる可能性もあるのでは?」
「店員にばれずに? うーん……確かにそういうのって慣れてるやつがやってたらちゃんと見てても分かんないのか」
「とりあえず休憩室に貼り紙でもした方が……あとは店の外に注意喚起しとくだけでも変わるって聞きますし」
「そうだね。ありがとう」
いやあ助かるなあなんて言う店長に笑みを返しておく。いい人なんだけどちょっと抜けているところがあってたまに心配になる。新人の出来は確かにあまりよくないと聞いたけれど、それにしても結構なずれなら盗みを疑った方が正しい。
朝の人に引き継ぎをして無事今日の勤務を終える。よく考えたらまた今日も普通に勤務なのか。……まだ食材は残っていたはずだからとりあえずご飯を食べて、寝よう。自炊が意外と続いていることに我ながら驚く。さすがにお弁当なんて面倒だから勤務日は一度はコンビニのもので済ませてしまうが、むしろその一度のおかげで続いているのかもしれない。
万引きか。この国の中で言えば治安は悪くないと思うけど、その程度のことは起こり得るだろう。前の店長の時に強盗に入られたこともあると聞いた。そういうのが来たらどう対応するのがいいのだろう。殺されるのは勘弁してほしいな。
家に着きリュックを下ろすとため息が出た。カーテンを開け、光を室内に入れる。朝日を見ると一日が終わった感じがしてしまう。それと同時に、今日も始まったんだなと思って少し嫌な気分になる。こうやって境の曖昧な一日は死んでいく。次に来るのはいつなのだろう、知り合いの人が話しやすい人だといいな、寝不足の頭でそんなことを思いまた息を漏らす。一人だと気にすることなくため息を吐いてしまうからよくない。煙草を取り出し、窓を開ける。