雨の中でダンス

 シャルナークと寝た。回数などとうに数えることをやめたが、結婚する前からこの関係は続いている。もちろん、旦那は知らない。

「君既婚者だったなんて」
「言ってなかった?」
「聞いてなかっただけかも」

 シャルナークは、笑いながら私の左手をなぞった。指輪はテーブルに置いてある。腹が立つくらいきれいな笑顔だ、と頭の片隅で考える。

「こんなことして、旦那さんとうまくいってないんだ?」
「ううん。そうでもない」
「じゃなんで」
「それとこれとは話が別じゃない?」
「普通は別じゃないと思うよ」

 君の旦那さんにとってもね。
 盗賊のくせに私に一般論を説こうとするなんて、意味の分からない男だ。シャルナークはそういう男だった。
 私はこいつに金を払っている。場代とは別に一万ジェニー。安くなったものだ。最初は倍とられていた。どうやら、こんな奴にも愛着は生まれるらしい。いや、愛着の問題ではなく、ただ単に楽になったからということなのかもしれないが。
 俺と? 構わないけど、なんで俺? えっ処女なの? じゃあ二万くらいかなー。いや冗談だよ。払うって言うならもらうけどさ。
 そうして律儀に金を払い続けている。

「一年ぐらい経つんでしょ? よくバレてないね」
「バレてもどうにかなるわよ」
「そういうとこいいと思うよ」
「これは浮気じゃないから」
「浮気だと思うけどなあ」
「だって、あんたのこと旦那以上に好きにはならないもの」
「奪っちゃうよ」
「盗賊みたいなこと言うのね」
「やだな、こんな善良な一般人に対して」

 反応するのも面倒だったので、黙って枕を抱きしめなおす。普通に会話してはいるがこいつはA級賞金首なのだ。何が一般人だ、としか思えない。
 人懐こい笑顔を見せる男だ。童顔でかわいらしく、それに釣り合わないような高い身長に、筋肉質な体、その全てが私にとって魅力的だった。自身の貯金を切り崩しても抱いてもらいたい男だった。けれどそれは、好きとは違う。ただ、欲求のみが私を動かしている。実際私がこの男を好きになっていたら、もうとっくに離婚しているだろう。そしてこれから先もそうならない自信がある。
 色白な指が頬に触れる。顔を見ればなんだか複雑な表情をしていて、すぐに逸らす。この男といる時はせめて完全に思考停止していたいのだ。

「君って馬鹿だね。好きな男がいるのに、俺みたいなので処女捨てて、二年経ってもこれを終わらせずにいる」
「あんたには分かんないわ」
「でもさ、ウボォーを選ばなかったのは正解だよ」
「どうして?」
「俺みたいに優しくないから」
「そこがいいのよ」
「君の旦那さん、見てみたいよ」
「言っとくけど、あんたと違って普通の人よ」
「失礼なやつ」
「はいはい」
「ねえ、まだ足りないでしょ?」
「ん」

 時計に目をやる。頬を撫でられその瞳を覗き込めば、当たり前のように唇が重なる。そして、開ききってもいない心をふさぐ。
 ざわめく心に呼応するように耳には静かな音が入ってきた。ああ、息を漏らし、私は窓をちらと見た。白い布の向こうではたぶん、雨が降っている。