あなたは淡くうつくしいかたちで過ぎゆく
閃光、雷鳴。それから、あなた。
私はあなたに恋をした。
▽
薬のにおいがする。
「なあに」
「……意識が戻ったか」
声の方に視線を向けると、年若い容姿の青年がひとり立っている。年若いと言うのは、己よりたしかに年嵩で、己の師や彼の師らより遥かに若いという程度の意味だった。魔法使いの見目はあてにならない。
男は液体が入ったいくつかのガラスの器を弄る片手間に、こちらに顔を向けていた。
「フィガロ」
「喪心していたな」
「そうしん」
「茫然としていた、と言うことだ」
「そう」
「お前の師はスノウ様とホワイト様と話をしている。ここがいずこかわかるか」
「双子さまのお屋敷」
私はようやく己の身体が椅子に座っていることに気づいた。いつから座っていて、私はいつまで座っているのだろう。宙ぶらりんな足。ここにいてもよいのだろうか、でも私にとってもっと大事なことがあるのではないか、と思う。窓の外を見る。灰色の空、真白の地平。ただ静かだ。これではない。どうしてかはわからない。
頬を掴まれ、私の視線は部屋の中へと移された。ランプが目元に翳され、目玉の表面が熱を捉える。「目をよく開けていろ」。言いつけの通り、近づいては離れ、もう一度近づく灯りを見つめる。火は赤く揺らめいている。でも、これでもない。「この指が何本に見える」「三本」。フィガロは立てていた指を下ろして頷くと、また作業台へと戻っていった。
眼の表面が乾いて、私は瞼を下ろす。暗いのに、視界が白むようだった。少し似ていて、でもこれも違う。
だって、もっと眩しかった。
「調子は」
「わからない」
「オズの魔法に当てられたのだろう。間の悪いことだ」
「オズ」
「あのお二人方と殺し合いをしていたこどもの名だ。お前が見るのは初めてであったな」
二度目の呟きは声にならず、掠れたまま虚空を漂った。私はその現象の名を反芻する。
夜空が棲む髪から覗く燃える星の瞳、凍土のまなざし。
オズ。
「年端もいかぬこどもの見るものではない。恐れるのも無理からぬことだ」
男の声がより近くから聞こえて、顔をあげる。いつのまにかフィガロは正面の椅子に腰かけていた。己の視界が狭くなっていたことに気がつく。呼吸は浅瀬で溺れるようだ。なにか痛いような気がするのに、なにが痛いのかわからない。くるしい。
「……鎮静薬を調合していたが、先程の記憶を消してやることもできる。好きな方を選ぶといい」
瞳の翡翠に、憐れみとほんの少しの親しみが滲む。フィガロは親切でとても頭がよいから、言われた通り選べば、きっとくるしくなくなる。
「いいえ」
私の返答に、フィガロは何も言わなかった。
「……はなれないの」
もうここにはない、どこにもない景色が私を焼く。つい先ほどの、はるか昔の、私の中で燃える、どこにもない。
あの鮮烈な現象の名を、私は知ってしまった。どこにも行けないと、ここ以外のどこにも行けなくていいと思った。ただその中にいたかった。何を置き去りにしてでも、何もかもを忘れても。
こんなにくるしいままでいさせて。
私を離さないで。
男はまっすぐと私を見下ろして言った。
「あわれな」
▽
雪原が陽光を反射して輝く、その眩しさに目を細める。
あなたのまなざしがあなたの愛しい子にそそぐのを、私は少し遠くで見ている。あの子と遊ぶのを、ちょうど交代したばかりだから。
「あれがオズだって」
即席のティテーブル越しに声の主に視線を移す。
「俺はいまだに、ちょっと信じられないな」
私はもう一度ふたりに視線を戻して言った。
「オズだわ」
「知ってるよ」
男が事も無げに言う。見てわかることを口にしてみたり、知っているのに信じられないなんて、まるでらしくないように思えた。
「うふふ、変なフィガロ」
私が笑うと男は何か言いたげにこちらを見たが、結局肩を竦めただけだった。
きゃあと高い声がして再びそちらに視線を遣ると、アーサーがリスを見つけたところのようだ。ころころと走り回るのをオズが制して、魔法でリスをアーサーの元に移動させる。アーサーがはしゃいで走り回ると転んでけがをする、と言うことをオズが学んだのは最近のことだった。幼いこどもは放っておけば育つわけではないということも、楽しくなるととどこまでも走って行ってしまうことも、とにかく様々な理由で簡単に死んでしまうということも、オズは最近知った。それらを教えるのはフィガロや、スノウさまとホワイトさまの役割だった。
今日は南の国の夏は暑いからと避暑に訪れたフィガロがまずアーサーの遊び相手を勤め、次に私が、それから今はオズがそうしている。順番に遊ぶことにしたのは、アーサーがより長く遊ぶためでもあり、オズにこどもとの遊び方を示すためでもある、と言うのがフィガロの話だ。
「まあ、アーサーの傍で棒立ちになってた時からすれば、だいぶマシになったかな」
リスがアーサーの肩に登り、くるりと首の回りを駆ける。アーサーもつられて回り、ぺたんと尻餅をつく。オズがアーサーを起こし、小さな頭に触れる。私は見ている。ぎこちなく羽に触れるような手つきを、光に戸惑うようなまなざしを。
きれい。
「お前も飽きないね」
「うん」
どれのことだかよくわからないまま、とりあえず私は頷いた。こちらを向いて手を振るアーサーに応えるのに忙しかったのだ。ひとしきり手を振り返して男の方を横目で見る。男もアーサーに向けて笑みを浮かべ手を振り終えたところで、頬杖をついた。顔はこちらを向かないまま。
「……俺だってまさか偽物だとは思わないさ」
フィガロは笑っていないと昔みたいだと思った。あるいは、声音が淡々としていたからそう感じたのかもしれない。言葉はティテーブルの上に落ち、私はオレンジのコンフィを摘まんで口に入れる。
「でも、何もかも違うみたいじゃないか。スノウさまはホワイトさまを殺すし、チレッタも死ぬし、オズはこどもを拾ってあんなふうだし」
「フィガロは南の国のお医者さん」
「その通り。夢でも見てるみたいだ」
これは夢ではなかったし、フィガロの言うことは正しかった。双子は片割れを殺し、大魔女は石となり、オズはアーサーを拾った。雪解けが訪れるように、なにもかも留まることはない。
「お前は相変わらずだけど」
いつかに似たあわれみのこもる翡翠の眼。声に垂らされた蔑みの一滴。
「二千年近く想い続けた男が、たかだか数年で変わっていくのを見るのってどんな気持ち?」
ティカップから唇を離す。
「フィガロさまー! さまー!」
幼い子の呼ぶ声がする。
「……ああ、アーサー。オズはたくさん遊んでくれた? いじめられてない?」
駆け寄るアーサーにフィガロが微笑みかけると、こどもは「オズさまはいつもお優しいです! いっぱい遊んでくださいました」と無垢な笑顔で答えた。
「よかった。楽しかったのね、アーサー」
息を弾ませるアーサーの髪を梳いて整える。前髪を梳けば後ろもと言わんばかりに頭を寄せてくるのが仔犬のようだ。
「オズさまがこれから湖に連れて行ってくださるのです。フィガロさまとさまは一緒に来てくださいますか?」
「うーん、行きたいところだけど、そろそろ診療所を開けなくちゃいけないかな」
そうですか、とアーサーは目に見えてしょんぼりと肩を落とした。
「また来るよ。湖はが行けるんじゃない?」
フィガロは銀色の小さな頭を軽く撫でると席を立って、オズの元へと向かう。
「さま」
「うん、ご一緒するわ。お菓子を包んでいきましょうか」
「やったあ!」
アーサーからリスと戯れた話を聞いていると、フィガロが飛び立ち、オズがこちらに歩いてくるのが見えた。アーサーが「オズさま!」と声を上げ、ぴょんと跳ねる。
「湖に行くのでしょう。ここから一番近い?」
「ああ」
「浮かないお顔だわ」
「……フィガロが、アーサーは溺れたら死ぬ恐れがあるから気をつけろと」
「私は大丈夫です! 溺れません!」
「でもフィガロが言うのだし、少し気を付けておきましょうね」
「はい……」
「大丈夫、とってもきれいな湖なの。きっと楽しいわ」
はい、と返事をするかわいい子の小さな口に氷菓子をひとつ差し出す。ぱっと笑顔を浮かべたアーサーは、にこにことしたままそれを口に含み「おいしい!」と声を上げた。
湖までは魔法を使わず向かうこととした。アーサーは歩きながら色々なものを探すことが楽しいらしい。視線はあちらこちらへと忙しなく、目に付くものを端から何かと訊いてくる。それにオズが答えたり、私が答えたりしながらゆっくりと歩く。目指しているのは森の深く、オズの縄張りの中でも一際大きい湖だった。
「ピクニックをしたこともあったかしら。とっても昔に」
「昔とはどのくらいですか? 私が生まれるよりも前ですか?」
「ふふ、もーっと昔。私の背が今のあなたよりも少しだけ高かったような……、そうでもないような……」
どうだったかと考えていると、思いがけず答えがもたらされた。
「高かった。私もお前も」
「そうだわ。それに私、まだあなたよりも少し背が高いくらいだった」
私が言うと、驚いたように幼い声が上がる。つんのめりそうになるアーサーに手を差し出すと、柔らかい手がぎゅっと握り返してくる。アーサーはそのまま私を見上げて、瞳を輝かせながら問うた。
「さまが、オズさまより大きかったのですか?」
「そう。ほんの少しの間だけ」
「では、フィガロさまよりも大きかったときがありますか?」
「うーん、フィガロは会ったときからあのくらいだったから」
「スノウさまとホワイトさまは?」
「双子さまも私の知る限りずっとあのお姿だわ。時々大きくなられるけれど」
「私もお二人が大きくなられたのを見ました。びっくりしてしまいました。……私も大きくなれるでしょうか?」
「うん、アーサーはまだまだ大きくなるし、きっと世界で一番かっこいい男の子になるわ」
「えへへ」
アーサーは照れ笑いの後、ふいにそわそわとして、それから慎重に声を潜めて言う。世界の秘密を解き明かそうとするかのような、あどけなく深刻な表情で。
「とっても昔のオズさまは、どんな方でしたか?」
「お星さまみたいだった」
私がそれに声を潜めて答えると、アーサーは陽を浴びる花のように微笑む。
「今とおんなじですね」
▽
「何をしている」
弦を弾く手を止めて、声の主を見上げた。
「楽器を弾いているの」
西の国で習ったベルスーズを弾き終えようというところだった。あるいは、師を待っているのだと答えるべきだっただろうか。
そうだろうな、と呆れたように頷いたフィガロは、木のもとに腰かける私の膝へと視線を落とした。そこに乗っている少年らしい丸い輪郭の頭。黒髪は無造作に流れている。
「双子さまにいたずらされてしまったのですって」
私は頬に伸ばした指で触れずに、そのラインをなぞった。顔色はやや青ざめていて、引き結ばれた唇が険しい印象を与える。
「それで」
「おしゃべりなローズの香油に、リャナンシーの髪とバイコーンの蹄で作ったシロップをかぶってしまったみたい。先ほどここにいらしてね、気分が悪そうにしてらしたから、私、少し眠ったらいかがってお聞きしたの。眠っていたらおしゃべりがいらなくなるから、ちょっと良くなるわ、お手伝いしましょうかって」
「お前が眠らせたのか」
「ううん。ご自分でやるって」
フィガロはオズをじっと見降ろしている。オズの姿ではなく、オズが自身にかけた魔法の構造を見通しているようだった。深く眠るための魔法と、強固な結界の魔法。触れたところで目覚めはしないが、魔法で何らかの干渉を試みればたちまちに覚醒するだろう。
「それで、まさかオズがそこで眠ったわけでもあるまい」
「眠っていらっしゃるから、少し勝手をしてもいいかと思ったの」
睫毛が震えるのを見とめ、その目蓋を上げてくれないかしらと思った。欲しいものはまなざしではない。動作ではない。心でもない。だとしたら。
「何故そこまでオズに心酔する」
「しんすい」
「……何故そのようにオズを好いている」
「好きはわかるわ」
私はぱちんと手を合わせる。
「私、オズが好き。でも言葉にできることをどれだけ集めても、それはオズにはならないの」
「……殊勝なことだ。否、傲慢なのか」
「フィガロの言葉は難しい」
私は言って、地面にまで垂れる黒髪を梳いた。フィガロは難しい言葉と魔法をたくさん知っていて、時々それらを教えてくれるけれど、“しゅしょう”と“ごうまん”については説明してくれなかった。
オズはまだ目を覚まさない。最後に会った時よりも少し背が伸びていた。私の背はそろそろ伸びるのをやめてしまうから、数年後には追い抜かされているだろう。それは次に会う時かもしれない。
生きているあなたはさまざまに変化する。あなたのパーツは新しくなる。
あなたはこの庭で双子さまと殺し合いをしていた。
でも、今はそうではない。あなたはそこにはいない。
もうあの鮮やかな景色に間見えることはない。
私はふと屋敷の高くにある窓を眺めながら、フィガロに問うた。
「フィガロはどうしてここにいるの? あの人と双子さまのお話は終わったのかしら」
「まだだ。あの分では、話し合いでは済まぬだろうな」
「まあ。大人は殺し合いが好き」
「ほとぼりが冷めるまで、オズを連れてここを離れる。置いておいてはろくなことになるまい」
辟易した声に、私は言う。
「ご一緒したいわ。誰ともお話しできないのは退屈」
「好きにするがよい」
「どこに行くの?」
「山稜か、湖か」
「村は?」
「行かない。お前たち二人を連れて歩くのは骨が折れる」
「湖に行きたいわ」
ささやかにため息を吐いたフィガロの手元に、オーブが浮き出る。短い呪文が唱えられると、バリバリと空気が逆撫でされたような不快感が場を支配する。一瞬のことだったが、それで十分なようだった。
あなたが生きていると、私はうれしくなる。私はそれを知ってしまった。
私はパーツが好きなのではない。
▽
少しの散歩と冒険の後、唐突に視界が開ける。
「大きいです! 海みたい!」
薄くかかっていた霧をオズが晴らしてなお、彼岸が霞むほど広大な淡海。
水辺に駆けだすアーサーをオズが呼び止めるが、それも耳に入らなかったのか、小さな背中は湖のふちでしゃがみこんだところでやっと止まった。ちゃぷちゃぷと水に触れては「冷たい」と喜んでいる。
「アーサー、身を乗り出すな」
「オズさま、水の中に草がいっぱいあります。お花も咲いています」
「そういう場所だ」
「お魚もいますか?」
「いない」
オズが再度、「身を乗り出すな」と忠告すると、アーサーは残念そうでもなく身を引いた。
「さま、水の中にお花がありますよ」
「うん、きれいね。教えてくれてありがとう。アーサーは優しい子」
期待のこもった瞳に応え、私は銀色の小さな頭を撫でた。子犬のようにすり寄ってくるのが愛らしく、頭だけとは言わず両手で頬まで撫でまわすと、アーサーは柔らかな頬を挟まれたままくふくふと笑う。
無垢で、無邪気で、無防備なこの子に、オズと出会ってくれたこの子に、この世界のありとあらゆる祝福が注げばいいと思う。
「そうだ! オズさま、さま、私があっちから手を振りますから、それが見えたら合図してください」
アーサーとその指差す先の湖辺とを見比べ、オズは「何故」と問うた。
「だってそうしたらきっと楽しいです! 見ていてくださいね」
「アーサー、水辺には寄るな」
はい、と返事をするが早いか仔兎のように駆けだした身体は、オズの忠告を聞くと湖の淵を大きく迂回して、まだ表情の見て取れる距離で立ち止まる。オズと私の名を呼び、飛び跳ねんばかりに手を振るアーサーに、私は手を振り返し、オズはただ見つめていた。
眩しいものを目にしたように。
「……オズ、合図をして差し上げなくちゃ」
私が言うと、数瞬の後、オズは静かに呪文を唱える。光の粒がアーサーの足元を取り巻き、流れるようにこちらへと戻る道を示す。アーサーはそれを追い、やはり水辺を迂回して駆けてくる。オズはどんな魔法でも使えるけれど、こういった使い方は最近覚えたものだった。
勢いを殺さないまま戻ってきたアーサーを受け止め、再びオズが問う。
「楽しかったか」
「楽しかったです!」
「満足したのなら、あまり走り回るな」
「はい!」
高揚したまま答えたアーサーは、淵に近づきすぎないように気を付けて、それでもやはり浮足立つ気持ちが抑えきれずに、オズと私の周りを行ったり来たりしている。
私は跪き、湖面に手を差し入れ、水中花をひとつ呼んだ。色素の抜け落ちた澄んだ花弁が震える。手にしっとりと吸い付くそれに、私は魔法をかける。
「あ! お花が」
「お花のお舟。いかがかしら、これは冒険の続きにふさわしい?」
「乗ってもよろしいのですか?」
「もちろん。ねえ、オズ」
「……落ちたら」
「あなたがアーサーを抱っこしていて下さればいいわ。ぎゅってして、離さないように」
ぎゅっと、とオズは得心のいかない様子で呟いた。
「アーサーはぎゅってするの、できるものね。オズをぎゅってしていてね」
「はい! ではオズさま、アーサーがオズさまをぎゅっとさせていただきますね」
早速意気込んで抱き着くアーサーを、オズはじっと見降ろし、頭を撫でる。「違わないけど違います」とくすぐったそうに囁く幼い声に、オズは戸惑いの滲む視線で小さな頭を眺め、それから私を見た。
「ふふ」
「なんだ」
なんでもなかった。かわいらしいと思っただけだ。
小舟にはまずオズが乗り、次に差し出される手を取って私が乗り込む。揺れが少なくなるのを待って、ようやくオズがアーサーを招いた。小さな身体はオズに背を向ける形で膝の間に収まる。
「オズはアーサーのお腹の前に手を回して、そう。じゃあ、行きましょうか」
花の茎のオールで漕ぎ出すと、あどけない歓声が上がった。船が水面を滑り出し、岸はだんだんと遠ざかってゆく。
心細いようで、楽しみなようで、さみしくていとしい。
変質しないものなどないと知っていて、それでも離したくない情景があった。それからもうずいぶん遠くまで来てしまったけれど。
「お前は、あの場所でリュラを奏でていた」
ふいにオズが畔を見つめ言う。
「あら、そうだわ。おぼえていらしたの?」
「……今、思い出した」
「リュラと言うのは楽器ですか? 私も聴いてみたいです。さま、アーサーにも奏でてくださいますか?」
「もちろん。戻ったら」
「ここで弾けばいい」
「お船、止まっちゃうわ」
「構わない」
「……じゃあ、少しだけ」
▽
たくさんの景色が私たちを通りすぎた。
すべてが等しく過ぎゆくなかで、一瞬ごとにこれまでにないあなたが積み重なるのがうれしくて、でもあなたが絶え間なくあなたであることがよろこびだった。
あなたが何者でもいい。なんだっていい。
離れ行く景色すら、あなたの歴史なのだから。
私はあなたを愛している。
企画/離 title by
エナメル 2022.8