分かってたよ
※本編「僕がここにいなければ」~「刹那くて狂しい」あたりのフィンクス側の話です(色々ガバガバですが気にしないでください) オリキャラがいます
「ヨアニーディスファミリーかな。他にも引っかかったけど、二十代前半の娘がいるとこってなると。あとここだとそのへんから割と近い」
「人数は?」
「五十以上百以下。六十ぐらいじゃないか?」
「そりゃ俺一人でも行けそうだな」
「適当に誰か連れてけば? 敷地結構広いみたいだし、殺し漏れはまずいだろ」
「暇そうな奴に声かけるか。能力者いねえんだろ?」
「たぶんね。まあでもいたとしてもそこまで強くはないと思うよ。あのあたりに居座ってるだけで、他との交流もそんなになさそうだから。マフィアにしてはインドアな感じ」
「殺し甲斐のなさそうな奴らだな」
男はパソコンから目を離さず姿勢を戻した。腰に両手を当て、首を鳴らす。マフィア潰しをするのは久しぶりだ、と思う。あんなことさえなければ次はいつだったかも分からない。ハンター専用サイトから敷地の地図や屋敷の見取り図をダウンロードし印刷していた仲間は、何も聞くなと言ったことを守るつもりらしい。てっきりしつこく聞いてくるものだと思っていたが、詳しく調べているうちにどうでもよくなったのか、支払い額分の仕事を全うしようとしているようだった。
友達の親で、と言っていた。潰そうとしているのが分かったらあの女は悲しむだろう。だからこれはあいつを思っての行動ではない、と男は結論づける。
「あーでも」
様々なページを行ったり来たりしていた仲間が椅子の背もたれに寄りかかる。顎に一度指を添え、それから男を見上げた。
「今半分ぐらい出払ってるだろ。覚えてる?」
「あー……どっかの美術館だっけか?」
「そうそう。だから暇っていうと……ノブナガとかフェイタンとか? マチも、何もなければ暇かもね」
「フランクリンは?」
「ああ、今どこにいるんだかは分からないけど、美術館の方には行ってないよ。ヒソカは美術館には行ってないけど応じないだろうね。あとは……ヴァレリーかな?」
「なるほど。ありがとな、シャル」
「金さえ払ってくれればいいよ」
「後で振り込んどく」
「忘れるなよ」
「忘れねーよ。邪魔したな」
手渡された紙をポケットに入れ、男は窓を開ける。無駄にいい部屋に住むのはあれのプライドなのかなんなのか、とにかく自分には理解できないことであると男は思う。ここはまだマシな方だ。飛び降りた先でケータイを取り出し、連絡先一覧を呼び出す。
家に着くまでの間に、即拒否したフェイタンと大人数相手に向いていないノブナガ以外の二人に話をつけ、また別の話をするためにマチにかける。数回のコールの後電話に出た女はあまり機嫌がいいようには思えないが、いつものことなので気にならない。
「お前覚えてるだろ」
『ああ』
「明日あいつがバイト行くまであいつといてもらいてえんだが」
『忙しいから無理。ノブナガにでも頼めば?』
タイミングが悪い、と男は舌打ちした。こうなったらヴァレリーでもいいかと思うが、あいつは戦闘以外ではあまり頼りにならない。シャルナークの口ぶりからしてパクもシズクも美術館の方に行っているのだろう。マチを抜かしてと顔見知りなのはノブナガだけだ。再びため息を吐きながら、家のドアを開ける。
女の話を聞く限り今後件のマフィアが手を出してくる可能性は低いだろう。しかしどこから情報が漏れるか分からない。面倒なことになる前に火種を消しておいた方がいい、それを当人は喜ばないとしても。
「あー、ノブナガか。頼みてえことがある」
「ねえ」
「あ?」
「三人もいる?」
「念のためだ」
「そう」
女が感情のない声で言う。屋敷の様子を遠目に見ての感想らしい。その隣で同じく様子を伺っていた大男は、静かに歩き出す。それに従って残りの二人も屋敷に向かって歩を進めた。
静まり返っていた屋敷に明かりが灯っていく。向かってくる人間の首を折って走りながら、男はある女を探していた。の友人だというヨアニーディスの一人娘だ。シャルナークからの情報で親子の顔を確認した。会って何を言うかなど分からない。しかし、あの女の友人というものに興味があった。片端からドアを開けていくものの、どれも外れ。大抵の部屋がもぬけの殻だ。もしかしたらもう、親子は脱出しているかもしれない。それなら今頃ヴァレリーに殺されているはずだ。
生きて屋敷内にいる可能性は低いと思い始めたところで、廊下の一番端の部屋から大勢の護衛と見られる人間が飛び出してきた。なりふり構わず発砲しているが、男の敵ではない。それらを数秒で片づけてしまうと、その部屋に足を踏み入れた。
瞬間、一人の女と目が合う。男はその様子に、立ち止まった。
「お前がトニアか」
一瞬驚いた顔をしてから、女は俯き、そして肯定する。そっか、という言葉は男に聞こえていたか定かではない。一般人にしては慌てない女に男は、なるほどこれがあいつの、と目を細めた。
「パパはここじゃないよ」
「そんなんどうでもいい。俺はお前を見たかっただけだ」
「……見たかった?」
「の友達ってのがどんな奴か、興味があったからな」
「ほんと、……あの子、私のことなんだと思ってるんだか」
「言っとくが別にあいつに頼まれて来たわけじゃねえぞ」
「はそんなこと言わないよ。分かってる」
うちは弱いからね。呟いた女は何もかも諦めたように笑った。
「ちょっと安心した」
「……ああ?」
「をよろしくね」
「目的は達成できたのか」
「まあな」
「フィンクス」
「あ?」
「忘れないでね」
「なん……ああ。あー……」
「じゃ、おつかれ」
軽やかな足取りで帰っていく女の後ろ姿に思わず舌打ちが漏れる。急ぎだったとはいえどうしてあんな条件を飲んでしまったのか、自分の浅慮に腹が立つ。曰く、「事情を話してくれるなら」。
「俺も帰るぞ」
「おう、わりいな」
「またな」
大男は太陽の方向へ歩いていく。なんだかんだ人数を相手にすると返り血はつくなと思いつつ、男も自身の家に向けて歩き出す。バイトが終わるまでに戻れるだろうか。をよろしくね、と言う女の声が不意に蘇る。一つ深呼吸して、男は声をかき消した。