白々しく鈍く輝く、

 はっと目を開けるとあたりは明るくなっていた。体を起こそうとするも全身がひどく痛い。失敗したんだろうな、嫌だな、口からため息がこぼれる。無理やり起き上がり朝日へと目を向けるが、体重をかけたところがいきなり沈んだのでバランスを崩す。

「しぶてえ奴だなあ」

 ひどい臭気だ。声を見上げればそこには私が狙っていたはずの男が立っている。その大きな体で光がある程度遮られるが、目の端でまだちかちかと煌めいている。なんだか緊張が解けてぼんやりと疑問を口にした。

「ここは……」
「見て分かんねえのか。お前が来たがってたとこだよ」
「……まさか……流星街?」
「あたり。食うか?」
「い、いらない」
「その体じゃ腹も減らねえか!」

 そう言って豪快に笑う男に唖然としてしまう。一応私はあなたの命を狙っていた人間なのに、これが、これが幻影旅団っていうやつなのか。絶対に負けないという自信があるからこういう態度をとるのだろうか。手のひらについたゴミを適当に振り落とし、今度はきちんと座ろうとする。これはたぶん肋骨が何本か折れたな。口の中は血の味で満たされている。まあすぐに治るだろう。男は邪魔なものをどかして私の隣に腰掛けた。

 つまるところ私は雇われの賞金稼ぎだった。三年ほど前に雇われた。主の気まぐれで何度死にかけたか分からないが、毎度多額の賞金をほとんどくれるのでずっとそれに付き合っている。じゃああの人が何を求めているのかと言うと、賞金首たちの遺体だ。
 そして主の興味が今回ついにA級賞金首にまで向いてしまった。まあなんとかなるかなと思っていたがそんなのとんでもない。今までなんだかんだすんなり任務をこなして遺体を主の元へ届けることができていたので、こうなってしまうとどうしたらいいか分からなかった。クレイジーな人間の言う通りに出来なかったら何が待っているんだ? 屋敷の奥の大量のオブジェを思い出し、鳥肌が立つ。

 隣で何かを食べ終わった男を見る。いかにも屈強そうな体には実際銃弾は通用しなかった。はあ、とため息。もう殺す気も失せてしまった。元々金目的で始めただけだし辞めても誰も文句は言わない。きっと主だって別の傭兵を雇うだろう。

「あなた名前は?」
「ああ? 名前?」
「私はと言う。どうせ死ぬんだから教えてくれよ」
「ウボォーギンだ。お前、ハンターかなんかだろ?」
「ただの傭兵だよ。なんで私を生かした?」
「そりゃお前が流星街見てえっつったからだ」
「私がここを見たいと言ったから連れてきたって? それも意識をなくす直前だろう」
「お前の目、ここの奴らに似てたんだよ」

 思わず口をつぐむと男ははっきりと目を覗き込んでくる。強い目だ。こちらがふっと目を逸らすとただ視線を感じるだけになった。仕方なく私は少しだけ背筋を伸ばす。

「まだ私はそんな目をしているのか」
「出身か」
「……さあね。しかしまさかここに来ることになるとは」
「なんだ、来るつもりはなかったのか? 見たかったんだろ」
「どこにあるのかも分からなかったからな。それに、思い出したくもないことだ」
「よく分かんねえが、ここの暮らしはそう悪いもんでもないぜ」
「……住みたくないな。体に悪そうだ」

 見上げればくすんだ空、視界に入る限りゴミの山らしきものと煙か何かで濁った空気。既に何かに侵されているような気もする。しかしそれほど堪えないのはやはり慣れているから、なのだろうか。
 ポケットの中でケータイが鳴っている。膝を抱えそこに乗せた腕に額をつける。薄汚れた空気で腕が少し汚れていた。

「出ねえのか?」
「出たらどうなると思う?」
「知らねえよ。どうなんだ」
「楽に死ねるのが一番いいのかもな」
「ならそんなもん壊しちまえばいいだろ」
「仕事を失い流星街にたどり着いたなんて、笑えない話だ」
「少なくともこれで」

 ポケットごとケータイが盗られているのに気づいたのは、金属の砕ける音がしてからだった。一瞬思考が止まる。なんて……なんて奴だ。人の、しかも仮にも女である私の服を乱暴に破るとは。

「お前は死んだことになるだろうぜ」

 男がこともなげに言い、手の中で屑となったものを遠くに投げる。私は何度目かも分からないため息を吐いた。とんでもないことになった、と思う。こんなところで生きていけって言うのか。そもそもあそこに戻るつもりはなかったのだから、今の男の行動はむしろ感謝に値するのかもしれないけれど。
 金はある。ここを出ても家を見つけることはできるだろう。しかしそれが正しいことなのかは分からない。故郷かもしれないこの場所で私は……。

「私かあなたが死んでいるはずだったのにな」
「俺は死なねーよ。お前もな」
「気づいてたのか」
「見りゃ分かるだろ。どういうことなんだか知らねえが、瀕死だったはずだ」
「ちょっと傷の治りが早いだけだ。あなたみたいに強いんじゃない」
「へえ」

 再び顔を膝に伏せようとすると折り曲げていた腕をとられ、そのまま人差し指の骨を折られる。止める間もなかった。ひゅっと喉が鳴るが声にならない。痛みを確実に認識する前にそれが再生していくのが分かる。男は感心したように私の指を見ていた。

「……何するんだ。この獣」
「いや気になってよお。いてえのか?」
「当たり前だ」
「ま、とりあえず適当に案内してやるからついて来いよ」
「……はあ……分かった。ありがとう」

 男……ウボォーギンは立ち上がりゴミ山を下りていく。何がどうして狙っていた人間と同じところで生活することになるのか、意味が分からなかった。けれどついて行く価値はあるのだろうと思う。なんとなく。それに、きっと、なんとかなるから。指先はもう正常に動いている。



title by 毒婦の皿/160818