熱が冷める前に

※「熱が冷めるまで」でシャルに連絡をとっていたらif


 煙草を吸いながら、ポケットの中のケータイを取り出す。それを開いた時風が吹いて灰をさらっていった。四時すぎなんて誰も会えないよなと思いつつ、一般人とは違う彼らを思い浮かべる。電話で起こしてしまったら悪いしメールにしよう。駄目元で。
 会えないかというようなメールに対し、煙を一回吸う間に返事が来た。マジかよと思いつつ開くと、場所を問う文面。熱が高まる。そもそもあいつは車を持っているんだから、どこにだって来れるはずだ。最寄りの駅を指定するとすぐに了承が返ってきた。どいつもこいつもフットワークが軽い。全くもって私が言えたことではないが。とにかく一旦煙草を吸い終わればなんとなく落ち着くだろう。予想外にオッケーが出たことで私は混乱しているらしい。それを期待してメールしたはずなのに、この脳みそはどうなっているのだろう。

 私の中で、ヒソカはともかくシャルナークに会うならある程度ちゃんとした格好じゃないといけないという認識があった。いつからか、そして何故なのかは覚えていないが、たぶん女として見てもらわないといけない相手だからだろう。萎えさせてはいけないという思いが強い。まあどうせ服なんてすぐ脱ぐのだから関係ないのだけれど。
 でもなんだか今日は普通に話したい気分だった。セックスのつもりで来るだろうからそういう流れになればそうしようとは思っているが、それでなければただ一緒にいたいような。眠れない時傍にいてほしいのはきっと親なのだ。そう、親を知らない人間が思うのは甚だ滑稽である。そんなものをこちらもきっと親を知らないであろうシャルナークに求めるのだから笑うしかない。

 五時前には着くというのを見て、私は自室に戻った。早めに出て煙草でも吸うか。いや、なんだか最近本数を制御できていない気がする。まあ外で吸う分にはばれないから怒られないし、とかなんとか。
 たぶんシャルナークは都合のいい男なのではない。都合よく付き合っているからそう見えるだけで、実際はかなりめんどくさい奴だろうと思っている。束縛も強そうだし、浮気なんて即座にばれそう。何も知らないから好き勝手言えるのだけど。まあ、盗賊なんだから手に入れたら飽きるのだろうが、あれは一般人ぶるところがあるから、なんとも言えない。一般人ぶっていると思ったらいきなり恐ろしいことを言ったり。きっと自分ルールみたいなものがあってその線引きが私と違うから驚かされるのだろう。

 私の住んでいるところの治安はあまり悪くない。余程のことがない限り夜道で怖い思いなどしないし、酔っ払いもうろついていない。……と、高をくくって路地裏に入ったりすると、おっさんに絡まれる。
 残念ながら熱の引かない体では手加減ができない。操作系でも念でガードできない人間に対してはかなりの威力を持つ。あいつと会う前に少し発散できてよかった。スカートを直し、つま先を整える。ここからでは見えないが、おっさんは遙か彼方でのびているはずだ。ここの道ももう少し街灯を増やせばいいのに。他人事のように思う。

 駅に着いたのは四時五十分だった。五時前と言うならそろそろ着いていてもおかしくない。ぱっと見それらしき人は見あたらなかったので、車で来た場合分かりやすいように喫煙所で立って待つことにする。結局また一本吸ってしまう。あーあ。ライターの音が暗闇に響く。
 シャルナークの車が目の前に停まったのは火をつけてすぐのことだった。降りてきた男はまっすぐこちらに来て、同じようにガードレールにもたれた。

「そういえば君喫煙者だったね」
「……あんたの前ではあんまり吸ってなかったわね」
「一本ちょうだい」
「吸うの?」
「吸わないけど、吸えるよ」
「はい」
「ありがとう」

 渡して自分の分の続きを吸い始めてから、シャルナークの方を見る。顔を向けた時にはもう火をつけたところだった。手を風除けにして火をつけ、煙を吸い込みながらライターを元あったように煙草の箱にしまい、吐き出す。その一連の動きに思わず見とれてしまった。無意識のうちに見つめていたようで、渡された煙草の箱を受け取ることができず取り落とす。

「ちょっと、何してんの」
「あ……ご、ごめん」

 地面に落ちる前にそれをキャッチしたシャルナークが、呆れたようにまた差し出してくる。謝りながら今度こそちゃんと受け取って、鞄にしまった。

「周りに喫煙者いないの?」
「よく会う人にはいないわね」
「なるほどね」

 そのうちに長くたまってしまった灰を落とす。無駄に消費してしまった。まあいいか。
 吸い終わって空を見上げる。なんかかっこよかったな今の。絶対に本人には言えないような感想を抱き、星を探す。家から見るのとはやはり星座の位置が違う。ずっとそれらを見ていたら光に目が痛くなった。
 うつむいてブーツの先端を見つめる。汚れが目立つ。もう片方のつま先でそれを落とそうとするも、うまくいくわけがない。そんなことをやっていたら、急に上着のポケットに突っ込んでいた手を引き出され、文句を言う間もなく繋がれる。顔を上げても奴の方は煙草の灰の落ちる様を見ていて目が合わない。ああいいのかなと思いその肩に寄りかかった。

「今日やりたくないんでしょ」
「なんで分かるの」
「女の顔してないから」
「いつもメスの顔してるみたいな言い方しないでよ」
「俺が見れるのはそういう時だからさ」
「そりゃそうかもしれないけど」
「女の子みたいなとこ初めて見た」
「女の子だもん」
「あのなあ」
「ごめん」
「怒ってないけど似合わない」
「うるさい」
「自覚あって謝ってきたんだろ」
「……うるさい」
「女の子ってより女児だな」
「……」
「ごめんごめん」
「怒ってないわよ」
「知ってる」

 煙草を捨てた音がしていつの間にか伏せていた目を開ける。視線を感じて見上げると、目が合った。

「キスしたい?」
「野暮なこと聞くのね」

 熱を共有して、息が漏れる。つかの間の安息が訪れる。前言撤回、親とはこんなことはしない。ならばこの関係は恋人なのだろうか?