星形の空洞をその閃光で充たして
※捏造過多。不思議の国のアリスをモチーフにした複数の他作品からも影響を受けており、夢100の設定とは矛盾している可能性があります。
私はくだらない賭けが好きだ。言葉遊びも好きだし、美しいものと狂ったひとのことはもっと好き。ワンダーメアに生まれたありとあらゆる生き物は美しく、狂っていて、時々愚かしいから、愛しくてたまらない。今日も私は飽きもせず、大好きな終わらないお茶会に参加する。終わらないお茶会の好きなところは、いつまでも終わらないところ。それからもちろん、帽子屋がしきっているところ。
「おや」
ようやく、蝶がとまる。美しく狂った帽子屋の持つカップのふち、白い陶器の。私はわざとらしくため息を吐き、紅茶の残りを飲み干す。
「私の勝ちですね」
「蝶って気まぐれ」
「ええ、あなたのように」
「それからあなたね」
蝶が飛んでいれば、どちらのカップにとまるかを賭ける。花が笑えば、どちらに笑いかけているかを賭ける。コインの表裏や、次に現れる人、親愛なる芋虫の読む本のページ数まで、私と帽子屋はあらゆるものを賭ける。運を味方につけている男を相手に、勝敗は五分といったところだ。楽しむために手を抜くのであれば私はこの気狂いのことを嫌わない。
「一つ聞きたい」
黙って本を読んでいたキャピタ──私の愛する”怠け者”、フォルスト領を変化から遠ざける男が、本から顔を上げた。眠たげな瞳はまずマッドハッターに向いたが、口を開くと私を捉える。鋭く鈍い、冷酷で慈悲深い瞳の逡巡。
「私は今まで、幾度も貴方が負けるのを見てきた。マッドハッターが手を抜く以外勝つ方法がないのだろう。何が目的でこのような勝負をする?」
「おや、キャピタ。私と君が謎解き勝負をするのと同じでしょう」
「違う。貴様は私に対し手を抜いたりはしないし、我々の勝負に運は絡まない。は運が悪い」
「運って気まぐれ」
「ええ、キャピタと違って」
「この人は気まぐれと一番遠いわ」
「運が完全に絡まない事象など、この世に存在しません。ですから、この世の全ては必然です」
「私、負けてばっかりかしら?」
「いいえ、お嬢さん。私が手を抜いているように見えますか?」
「見えないわ」
「いや、手を抜いている。貴様はで遊んでいるのか?」
「私、遊ばれてるの?」
「いいえ、お嬢さん。私は君との時間を最大限楽しんでいるにすぎません」
「そうね。私もよ」
「運というのは不確かなものだ。必然などではない。貴方はまず、運を必然と言い張るこの男の種を暴き、勝つことに尽力するべきでは? それとも、勝つのが目的ではないのか?」
疑問を口にし始めると止まらないのが、キャピタという男の面白みの一つである。私にとっては小さな出来事、至極まっとうな言動がキャピタには理解できないらしく、こうして聞いてくるのも、終わらないお茶会の好きなところ。お茶会でなくてはいけないの。一人でいる時の私を、彼は愛してくれないから。
▽
「アリスが私を切り離した! 聞いてちょうだい、あ、聞かなくていいわ。そう、物理的な衝撃もあった。なんてったって私は切り離されたんだもの、衝撃もあって然るべきよ。今まで私は存在しなかったはずなのに、存在はしてたわ、でもいなかったでしょ、個体として? おかしなことに、私にはアリスの一部だったって意識が微塵もないし、突然現れたのに自我を持ってるの。私ってアリスっぽいかしら? 不思議の国なのよ、おかしなことしか起こらない。だからあなたを愛しく思うのも! 魔法って素敵ね。私がアリスだったらよかった? 私はアリスだったのかしら? ねえ、聡明な芋虫さん……」
▽
キャピタと共に狂ったお茶会を抜け出し、迷いの森へ。にこやかに送り出してくれた帽子屋の笑顔は、きっとアリスが不気味に思ったものの一つだろう。一度振り返るが男の視線はもはや私を向くことはない。私を負かせ、勝たせてもくれる人。そうしてダークグレーの毛先を視界に入れる。
おしゃべりなお花たちの笑い声。「最後の試練」だわ。片割れにすらなれないの。空っぽなのよ。くすくす……。
「あっ」
ついに、私は声を上げた。何か見つけたとでもいう風に。すたすたと歩いていたキャピタは、声に反応して緩やかに歩みを遅め、立ち止まってくれる。
「答えてなかったわ」
いつの間にか笑い声は止み、通常のざわめきだけが残っている。
「どうして勝負をするのかって」
「……勝つのが目的ではないのだろう」
「じゃあ、なにかしら。私、帽子屋さんは好きよ。ええ、でも、もちろんあなたが一番だけど」
「……」
「必然って言葉、嫌い。でも運命、運命じゃなきゃいけないの。勝ち負けには興味がないわ、それはね、帽子屋さんによって決められたことよ。だからあの人は必然と思うの。持つものと持たざるものっているでしょ。帽子屋さんと私は存在の値から違っているのよ。勝負っていうのは、ほとんど差のないもの同士が差をつけるためのものと、分かりきっている差を楽しむためのものがある。愛だってそうじゃない。なにも、おかしくないわ」
耐えきれなくなったのか、彼はどこからか煙管を取り出した。それで私も、一度息を吐く。
「運じゃない。運命なのよ」
じっと、私を見つめる瞳。アリスに、私だったものに向ける、彼の瞳。変わらないもの。変わりゆくもの。あの頃より随分軽いはずの肉体が震え、スカートの裾を揺らす。胸いっぱいに花々のにおいを吸い込むと、当たり前のようにくらくらする。
アリス。
アリス。 アリス。
アリス。
アリス。 アリス。
アリス。
アリス。
キャピタはしばらくそれを放っていたが、黙らないと分かると億劫そうにおしゃべりな花たちに煙を吹きかけた。花たちは、吐息のような笑い声を漏らしながら大人しくなる。噂話が好きな花たちにとって、彼は天敵なのかもしれなかった。姿勢を正し、彼を見上げる。
「不愉快だった?」
「奇妙な気分だ」
「複雑ってことね?」
「そうかもしれない」
この人が曖昧な言い方をするなんて珍しい。感情というのはそれだけ厄介で、理屈では説明のつかないものなのだ。
「お城にお邪魔しても?」
「そのつもりで私についてきたのだと思っていたが」
「まあ、聡明な芋虫さん。おかしな人……」
「……私は貴方に対し、どのような質問が有効なのか分からない。不可解なのは私でなく、貴方だ」
「分からない?」
「不愉快か?」
「奇妙な気分よ」
「貴方が複雑な感情を持つことがあるというのは、新たな発見だ」
「あら、ありがとう」
「何故?」
「あなたを愛しているからよ」
こぼれるため息と、森に溶け込む煙が、私を悲しくさせる。ほんとうに。
笑ってみせると、彼はようやく歩みを再開した。
空っぽなのは私だけだ。でも、それは感情を失ったという意味じゃない。私は喜んだり、悲しんだり、時には怒ってみたりもする。「どうすればそうなるのか」が分かっているのだから、何もおかしくない。アリスはもっと無垢でなくちゃ。いいじゃない、私は私だわ。私──空っぽの、片割れにすらなれない、人形みたいな。
「キャピタ」
「なんだ」
振り向くあなたの瞳や、声が、全身を埋めていく。
▽
「ア~リス」
歩いていると、頭上から眠たげな声が降ってくる。チェシャ猫とは、会いたくないと思っていると会えるので、現れるのは予想通りだ。
「チェシャ猫さん」
「あれえ、また間違えちゃったにゃ。キミ、いい加減アリスのにおい消してよ」
「私はアリスじゃないわ。でも、アリスでもある」
「おバカさんだにゃ~」
チェシャ猫の目。変わってしまったもの。変わらずそこにあるもの。目を逸らし、猫はあくびをする。
「あなたたちは、みんなアリスを愛してるのね」
「当然だにゃ。ボクたち、アリスから生まれたんだから」
「私はアリスを憎んでるわ」
「ボクにはそんなの関係ないにゃ」
「感謝もしてる。おかげで愛しい芋虫さんに出会えたもの」
「キミはアリスだったのに、ボクたちのことなんにも知らないね?」
「誰も、何も教えてくれないのよ」
誰も、何も教えてくれないのよ。脳に自分の声が反響する。こだまする。次に顔を上げたとき、チェシャ猫はどこにもいなかった。
要するに、この国はアリスが作り上げたと言っても過言ではなく、王子たちはすべからくアリスの虜となった。因果だ。かつては私もその対象だった──というよりただ、私がアリスだっただけの話だけれど。
やはり、私がキャピタに惹かれたのは運命だったのだろうか。それとも必然。自我を持っていたとはいえ突然生まれた私にとって、彼の興味の対象となることは望外の喜びであり、私から興味を持つきっかけともなった。
因果とは? それは、運命よりも大事なものなのかしら?
▽
彼の城はいやに静かだ。不自然で、おかしいということ。私と同じね。
「どうした」
手のひらを見つめる私に、彼が問う。
「不用意に蔦など触るから、切ってしまったのでは」
こうして私を見ていてくれるのはもはや彼だけなのだ。そういった思い込みは私を強くする。
「違うわ」
「では何を?」
否定のみを述べればまた疑問が飛んでくる。解決されない限り彼は質問や推測をやめない。私が愛していることなど、とっくに理解しているはずなのに。それが全ての答えだと、賢いあなたなら分かるはずなのに。
「これは夢かしら」
「夢?」
「そんな気がするの」
「なぜ」
「紅茶がとってもおいしいわ。何故かしら?」
「……」
「日差しがきらきらしてる。何故かしら? 蝶は私に見向きもしない。何故かしら? 噂話なんて気にならないわ。何故かしら?」
「貴方が」
あなたの視線はもう、本に向いている。あるいは、過去や、未来へ。
「貴方が私を愛していると言う現象だが、元になった感情は恐らく恋だ」
私に、この人の前で涙を流すことは許されるのだろうか。いつまでもアリスと競っているような私に。
「違うわ」
「恋というのは自覚が難しいらしい。今の発言は嘘だろうと推測できるが、どちらでも構わないし、可能性はある」
「あなたの言葉が」
「言葉?」
「溶けて、出てきちゃいそうになるの」
「処理しきれないという意味か?」
「違う、違うわ」
「……なるほど、貴方が恐れているのは喪失か。自身や、自身を構成する世界の」
本を閉じる音に身を震わせる。
「恐れる? 私が?」
「恐怖や不安があるから繰り返すのではないのか? 愛しているだとか、運命だとか。そもそも、運命という目に見えず定義も曖昧なものに縋っているにも関わらず、恐れていないというのは矛盾している」
「おかしな人。こんな国に生きているのに」
「あいにく私は現実主義でな。マッドハッターとは違う」
「私はあなたを愛しているのよ」
「常々思っていたが、貴方は愛しているという言葉について相応の説明をするべきだ」
「さっき説明したわ。ううん、いつもしてる」
「なんの話だ」
数秒考えてから、私は勢いよく立ち上がる。そばに行くと彼は訝しげに私を見上げた。いや、普段からこの顔だし特別不審に思っているわけではないのかもしれない。
「きょとんって顔」
「行動が読めない」
「愛は説明できないわ」
「説明したと言っていたが」
「あなたを愛している私に、この世界はどう見えているのかしら?」
「以前より世界がよく見えるというのは、本でも読んだことがある」
「そうよ。私の感情は正しいの」
「ほう……貴方は自身の感情の正誤にも不安があるのか。貴方の恐れは大概、アリスが原因らしい」
アリス。
彼が口を滑らせるのは初めてのことだった。これも偶然か必然か、彼は私が私となって以来その言葉を発さなかった。他のみんなと違い、彼だけが。
「知っていたの」
思わず、私も口を滑らせる。彼は本をテーブルに置き、煙管をくわえた。私の言葉の意図は正しく伝わったようだった。
恐れ。不安。自覚することこそ。指先が痺れているのを感じる。
「貴方はアリスではない」
「アリスは関係ないわ」
「貴方を生み出したのはアリスだ。そのことを貴方は厭うているようだが、元の世界に帰るために必要な行動だったのだろう」
「……」
「貴方は当初、自身をアリスと言っていたらしいな。しかし今では明確に否定する。どちらにせよ、アリスでないことに変わりはないがな」
私が黙っていると、彼は一呼吸置いて続けた。
「だからこそ、私は貴方に説明を求めている。恋とはなんだ? 貴方は何をもってその感情を正しいと?」
「あなたは……」
呼吸がしづらい。世界からはじきだされるのではないかと思うほど、つまり、あの子から剥がされた時のように。
「あなたなのよ。恋をしていたのは」
視線を上げ、彼の目をしっかり見る。すこしの驚きと不信感、それから悲しみ。
「恋を……していたはずだわ」
下瞼の震えが眼球を揺らす。初めから、私だけがおかしいのか。こんな国に生まれたのに、そんな理不尽があっていいのか。この国で、この、おかしく、狂っていて、愚かしい国において、ありえないと断じることに意味はないと、誰もが知っていた。
「……私が?」
あなたの瞳は何を映しているのだろう。
私の恋心なんて、どうでもいいことだった。
▽
「おや、お嬢さん」
聞き慣れた声にはっとする。いつも通り微笑みを浮かべる帽子屋が、カップ片手に私を見ている。両手についた土を払い、ゆっくり立ち上がる。振り返ると薔薇の蔦が絡む門があった。
「帽子屋さん」
「なんでしょう」
「私、あなたと会ったことがあるのよ」
男は笑みを深めた。
「でも、はじめまして」
「はじめまして、一人きりのお嬢さん。そう慌てる必要はないですよ」
「お茶会をしてるのね」
「ええ、そうです。まだその時ではない」
「お茶会は終わらないの。そういうものなのでしょう」
「私は時計を怒らせてしまいましたからね」
「じゃあ……」
「どうぞ、お座りなさい」
私は? 私は、誰かを怒らせた罰を受けている?
促されるまま席につき、用意されていた紅茶を口にする。あたたかく、ほんのり甘い。
「あれえ……」
いつからいたのか、向かいの席で眠りネズミが声を上げる。
「アリス……戻ってきたんだねえ……」
肯定も否定も発する前に、彼はまた眠りに落ちてしまった。相変わらず、眠り続けているらしい。
「お嬢さん」
帽子屋はもう、眠りネズミを見てはいない。
「なあに?」
「お名前は?」
「今この子が言ったじゃない」
「君はアリスじゃありませんよ」
「私はアリスよ」
「ふふ、いいえ。君はもう」
「私は、白うさぎを追ってこの世界に来たの! 小さくなったり大きくなったり、動物たちと話したりもした、それにチェシャ猫さんはおかしかったけど、優しかったの。本当よ……」
帽子屋は、首を傾げた。憤慨したことで自分がアリスだと分かったのに、何故か私は困惑して、自分が間違っているのではないかと思い始めた。薔薇の門を通る前、私はどこにいたのだろう。おかしな国。何が起きてもおかしくないところなのに。だからこそ……私がアリスではないことも、ありえるって?
「キャピタには会いましたか?」
「えっ?」
「私たちは皆、アリスを愛していた。君も知っているように」
「知ってるわ。よく、知ってる」
「ところでお嬢さん。これ、何に見えますか?」
彼はそう言うと、おもむろにすみれ色のマカロンをつまんだ。驚きつつ、こう聞いてくるということはマカロンではないのかと思い、身を乗り出す。今度は私が首を傾げる番だった。
「マカロンにしか、見えないわ」
「本当に?」
「本当よ」
と、答えた瞬間、マカロンは花になった。いや、元々花だったような気さえする。注視して答えを出したはずなのに。帽子屋が指を振ると、それはまるで意思があるかのように私のカップに飛び込んだ。驚いてのぞき込むが、浮かんでいるのは驚く私の顔だけ。
「砂糖だったのかしら?」
問いかけは意味をなさなかったらしいと、彼の表情で分かった。楽しげで、悲しげで、憂いを帯びた、無邪気で大人びたかお。
「ここは不思議の国、ワンダーメア。はじめまして、そしてようこそ、アリスではなくなってしまったお嬢さん」
▽
もうずっと、長いこと、私はアリスだった。誰がなんと言おうと、アリスの片割れ──残骸の方が正しいかな──であることに間違いはない。アリスであって、アリスでないもの。今ではほとんど全員が、私がアリスでないことに慣れてしまった。ほとんどというのは、一人だけ、態度も何も変わらなかった人がいるから。
恋なんて、愛なんて、あなたのことなんて、生まれた時から知っているのよ。いらない感情だとあの子が思っていたことも。
「あなたを愛しているの」
吐き出される煙は細長く、自分の発言の罪深さを知る。
「恋とは、なんだ」
重々しく呟いた彼は未だ私を見てはいない。
「あなたが一番知っているはずよ」
「そんなはずはない」
「ほんとうに、そうなの」
「私があの少女に抱いていた感情は」
「過去なんて捨ててもいいと思ったみたい」
「貴方はアリスではない」
「帰るためならなんでもしたわ」
「私は貴方ではない」
「でも、恋は消し去ることなんてできなかった」
「まさか、帰るために必要だったのは」
「それが私」
視線が交わる。自分がどんな顔をしているのか、分からなかった。自信なんて持てるはずないじゃない。こんなに空っぽなのに。
「驚いたな」
「そうは見えないわ」
「私自身の感情もそうだが、謎が解けてすっきりした」
「そうも見えないわ」
「どう見えると?」
「あなたはあなた」
「も、だ」
「違うわ」
「度々貴方を不快にさせていたが……正確には、そのように私は感じていたが、有り体に言えば貴方は妬んでいた」
「私には何もないのよ」
「感情がある」
「間違ってるわ! おかしいのよ!」
「そもそも、どの感情が間違っているだとか、おかしいだとか、そういう考えが間違っていると私は思うが」
「どうして? 私、アリスから切り離されたのよ。アリスじゃなくなったの! 私は初めから私だったわけじゃない。アリスを経て、不要部分が私になったんだわ。いらないって、おかしいってことじゃない」
「それが何かおかしいのか?」
「お……」
何がおかしいのだ? 私がおかしいことは、おかしくない? 固まってしまった私に、彼はすこしだけ口角を上げた。そのことにもびっくりして、彼を見つめる。
「まだまだ、この国を分かっていないようだ」
「私はアリスじゃないもの」
「ああ、そうだ。初めから」
彼は満足げに頷き、本を手に取った。
「……私は、変化を望まない」
適当にページをめくりながら、そう呟く。その声色に、出会った時のことを思い出す。私として初めてあなたに出会った日のこと。
「アリスが去って、貴方が現れた。大きな謎だ。それが解けたと思ったら、今度はさらに大きな謎を見つけてしまった」
「それは?」
「もちろん、恋。これまでになく、難解だ」
▽
「……貴方は」
小さく声が聞こえ、顔を上げる。ランタンを持つ彼を見て、私自身、私が次に何を言うのかもう分かっていた。
はじめまして、芋虫さん。ずっとあなたを想っていたの。知っていたかしら? あなたに、あなただけに拾ってほしくて、居残っちゃったのよ。
彼の沈黙、グレーの瞳、言葉を紡ごうと開かれる唇に、胸がいっぱいになる。漏れてしまわないように、しまっておこう。混ぜて私の一部になるまで。
「私、。はじめまして」
title by alkalism/220706